5)異母兄弟
和やかな雰囲気を壊したくはないんやけど。うちには気になることがあった。お客様方の前では一切話が出ないことやから、繊細な問題なんやろうなと思うけど。
行方不明のスレイと生死不明のライは、いずれ生き返る。その先は大変やろうけど、輝かしい未来があるはずや。
気になるんは、自分のせいじゃないことでお先真っ暗になる人や。
「第三王子ペドロ殿下はどうなるのでしょうか」
勇気を振り絞ったうちの言葉に、穏やかだった部屋が一変した。
「ペドロです。そもそも王妃でありながら不貞を働いた女の息子です。ことが明るみでれば王子ではなくなります。誰の胤かわからない男が、王子として振る舞っていたのです。それだけで罪に値します」
アスの言葉は正しい。その先に待ち受け取るペドロの未来は、うちの想像どおり真っ暗なこともわかる。
『愛人の子供であれば、王子ではないが国王の息子ペドロとして、生きることも出来た』
ライの言葉は既に、もう物事が決定していることをうちにつきつける。
『母親が何も罪を犯していなければだが』
「ペドロに王位を継がせるため、邪魔な私たちを始末しようとした女の息子だ。無理だ」
『罪を犯した者は裁かれねばならない。後の世の禍根となる先例は作れない』
恩赦もない。ライの言うとることがわかって、うちは悲しかった。
スレイもライも、異母弟ペドロの母親とその一派に殺されかけた。赤の他人のうちは、異母弟やっても阿呆ぼんペドロ殿下も兄弟やと思うけど。スレイとライにとっては自分たちを殺そうとした女の息子や。許されへんやろうし、許さんやろう。
巷でも、殺人王妃や血塗れ王妃と呼ばれとる人の息子や。阿婆擦れ王妃のほうが、まだましやった。関係した全員は間違いなく死刑や。それも一族を巻き込んで。うちは王国の法律も勉強したから知っとる。
「過去の判例もそうでした。難しいとは思います」
うちはなんとかならんかって、執務室にあった判例集を探してん。ライも、うちは甘いとか優しすぎるとか文句を言いながら手伝ってくれたけど。参考になりそうな事件は欠片もなかった。
阿呆ぼんペドロ殿下は可哀想や。そやけど、スレイとライとアスの三人も可哀想や。三人とも優しい人たちやのに、優しいままではおられへん。
「私もこの国の政争のすべてを知り尽くしているわけではない。だが王国始まって以来の大罪だ。王宮で侍女をしていた子爵家の令嬢が、王妃を殺して後の王妃に収まった。王子を産んではいるが、不貞を重ねている。元子爵家の令嬢が産んだ王子は誰の胤かという疑いが当然湧いてくる。派閥の貴族が先の王妃の子供二人を殺害を試みた。関係した一族は始末されて当然だ」
スレイは淡々と一つの可能性を事実として口にした。スレイは将来国王陛下になる人や。その人が断言した意味は重い。
極一部の人間にとって、都合が良くなるように、人が死にすぎとる。芝居でもここまで都合よく人が死ぬと、客が嘘くさいからって飽きて出ていくで。芝居は嘘を舞台の上で、本当のように演じるもんや。
芝居もかくやのこの血生臭いこの政治闘争、うちが台本を書くならば物語の最初は、皇国の黒真珠の君フロレンティナ様の若すぎるご逝去や。




