4)フィデリア様のお客様たち
辺境伯様のお屋敷は、フィデリア様を訪ねて沢山のお客様がいらっしゃる。お客様たちのお目当ては、フィデリア様だけやない。
イサンドロ様が才能を見込んで、教育を授けるためにフィデリア様に預けた二人の若者、スレイとアスがお目当ての人もいらっしゃる。ときに、フィデリア様が辺境伯様の御令嬢エスメラルダ様のために教育してはるうちとライにも、会いに来る人たちもいらっしゃる。
お客様たちとのお話し合いは応接室や。フィデリア様のお茶会のひとつやけど、緊張する。
お客様たちが帰りはったあと、屋敷の奥にある執務室で、人払いをして過ごすのがいつの間にか習慣になった。
華やかな場所で集まってあれこれって疲れるねん。お客様たちは、フィデリア様のご機嫌伺いに来てはるんやけど。全員の目的は品定めや。スレイとライとアスはわかるけど。うちまで吟味せんといて欲しいわ。
フィデリア様から教育をしていただいているから、うちの失敗はフィデリア様の失敗につながる。旅芸人の根無し草のうちまで気が抜けないってのは疲れるわ。
「まずはお茶を一杯、お菓子を少しね」
あのお客様たちのあとにも、笑顔を崩さないフィデリア様をうちは尊敬する。
「生き返る」
うちが淹れたお茶を相手にスレイは大袈裟やけど、アスもライも頷いてくれてちょっとうれしい。
うちの手にそっとお菓子が載った。ライや。いつからか、ライはうちにお菓子を食べさせたがるようになった。初めて会った頃とは逆なのが気に入ったみたいや。
「ありがとう」
長椅子に座るライの隣にうちは腰を下ろした。
フィデリア様はゆったりと、スレイとライとアスはぐったりと、椅子に座る。うちはフィデリア様のようなゆったりを目指すねん。
「腹の探り合いは面倒だ」
「全くです」
お兄さん二人組の言葉に、ライも頷いとる。フィデリア様は余裕の笑顔や。流石はフィデリア様、生まれながらの王族は違うと思う。スレイとライも王族やのに。王侯貴族って腹の探り合いが日常と違うんかな。三人とも面倒がっとるけど。芝居では、腹の探り合いばっかりやで。
ライがうちの視線に気づいた。
『何』
「フィデリア様はおつかれであっても常のようでいらっしゃいますね」
不満気やけど、だらしなく座っとるのはライやで。
「そうね。コンスタンサの言うとおりだわ」
フィデリア様の言葉に、でっかい子供たちが背筋を伸ばす。
「そのほうが、堂々として見えます」
フィデリア様の言葉に、ライがうちを見た。
「今のほうがえぇよ」
囁いたうちに、ライは満足気や。仕方ないなといいたげな、お兄さん二人組もいい姿勢や。三人ともそのほうが格好良いわ。
「人の上の立つ者は、常に今のようにあるべきなのです」
優しいフィデリア様の厳しいお言葉に、三人の顔が引き締まる。ますます格好良いわぁ。言わへんけど。
「幸いなことに私は亡き夫を得ることが出来ました。子供たちにも恵まれました。ですから寛いで過ごす時間を持つことも出来ました」
今は亡き先代辺境伯イノセンシオ様と王妹殿下フィデリア様のご結婚前後の物語も有名や。芝居も素敵なんよ。
「私達は眼の前にいる者が、気のおけない相手なのか否か、見極めなければなりません」
ライがうちを見た。スレイとアスもこっちを見とる。
「ちょっと気を抜きすぎですけど、うちの前だけにしはるならえぇんとちゃいますか」
わざと皇国語を使って気を抜いたうちに、笑いが起こった。




