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1)お茶会

 お茶会は何のためにするものかと質問したうちに、フィデリア様はいたずらっぽく片目をつぶって微笑んで、今日のお茶会を担当するようにとおっしゃった。今日が本番や。


 緊張する気持ちを落ち着けるため、うちは花壇に目をやった。手入れが行き届いた花壇では、沢山の花が風に揺れとる。綺麗や。綺麗に整えられた花壇も話題のきっかけになるから、花の名前も知っとくとえぇって、庭師のおじさんが、順番に教えてくれてる。みんなうちに優しくしてくれはる。


 秋風に揺れる花に風になびく草原を思い出した。座長と一座のみんなは、今はどこにいるやろう。寂しくなったうちは、大地母神様にお祈りをした。どうか一座のみんなが元気でありますように。うちを迎えに来てほしいけど、もうちょっと後にしてくれますように。ライがどうなるか心配やから、見届けてからがえぇので、その後に迎えに来てくるようにして下さい。


 ちょっと勝手なお願いやけど、本当にそうなって欲しい。ある程度見通したったくらいでもえぇかな。あんまり長く居ると、余計に離れづらくなる。


 ライは国王陛下にはなりたくなくて、お兄さんがおるからならんでよくて。ライは何になるんやろう。うちが考えてもしかたないことやけど。


 今日は特別なお仕事や。さ、頭を切り替える。うちはうちに号令をかけた。


 フィデリア様は今日もお美しい。

「当然の権利を侵害されたら、皆悩み苦しみます。お友達である皆様に打ち明けたいと思ってしまって。皆様、突然の招待ですのに、いらしてくださって、嬉しいことですわ。ありがとうございます」

フィデリア様がおっしゃると、ほんまに高尚なお話に聞こえる。うちやったら、友達に愚痴を言いたかってん。来てくれてありがとうって言うけど。


「お招きいただきありがとうございます」

「私たちにお話いただくことで、お気持ちの安らぎになるのであれば」

「お力になれますのであれば、幸いです」

フィデリア様のお客様方は、お返事もお上品やわ。よかった。芝居のお茶会は、嘘や無かった。


「王都の神殿にも困っておりますの。私は敬愛する兄の孫のライムンドに会いたいだけですのに。あれやこれやといい加減な理由で会わせてくれないのです。無事かどうか、本当に心配ですわ。ライムンドは、私が今も敬愛する兄の孫であり皇国から嫁いできてくれたフロレンティナの忘れ形見です。兄に代わって見守ってやるのが、妹である私の務めですのに。無事でいるか、元気でいるかを確かめたいだけですのに」

先王陛下の沢山おりはったご兄弟の中で、今もご存命なのはフィデリア様だけや。是非、長生きしていただきたい。


「兄の孫、ライムンドを神官の一人として、責任を持って育てて下さっていると思っておりましたが。王都の神殿などに預けるのではありませんでした」

フィデリア様は少し眉根を寄せて、物憂げなご様子や。

「フィデリア様もご心配でしょうね」

「お優しいフィデリア様のお心が、ライムンド殿下に届けば良いのですけれど」

お客様方も優雅や。


「私も甥が神官見習いですの。私の実家は皇国と縁が深いのです。心配ですわ」

一人は本当に青ざめてはった。

「まぁ、それは。さぞかし心配でしょうね」

「えぇ、兄に連絡しませんと」

家族思いのえぇ人なんやろうな。貴族が人前で感情をみせたらいかんってフィデリア様に教わったけど。家族を大切に思う気持ちは大切やと思う。

「事情が事情です。一刻も早いほうがよろしいですわ。私は何一つ連絡もなく、突然ライムンドに会えなくなりました。心配でなりません。次にあなたとのお茶会で、ぜひ、あなたの甥が無事で元気だと聞かせてくださいね。楽しみにしていますわ」


 次の招待を約束されとるってことは大切や。フィデリア様のお茶会を途中で帰ることを、フィデリア様がご不快に思っておられないという証拠になる。

「お気をつけてお帰りになってくださいな。あなたの甥の無事を、大地母神様に私もお祈りいたします」

フィデリア様の言葉に、次々と他の貴婦人たちも続いた。うちも心の中でお祈りをした。皇国と縁が深いとはいえ、ライよりは浅いに決まっとる。きっと無事やと思うけど。王国の派閥争いが、神殿に持ち込まれとったら、万が一もあり得る。


 お茶会を途中で帰る貴婦人は、フィデリア様に感謝しながら帰って行きはった。


 王宮での、意地の悪い嫌味と悪口ばかりの阿婆擦あばずれ王妃パメラ陛下のお茶会とは、本当に違う。

「ライムンドのための寄付と思っておりましたけれど。私はこれからは、領地の民が祈りを捧げ領地の民のために祈る神官たちがいる領地の神殿を大切にしたいと思います。領地には夫との思い出が沢山ございますの。領民たちは今も夫を慕ってくれておりますし」

貴婦人たちは、亡くなられたフィデリア様の夫、先代辺境伯イノセンシオ様の御戦歴とかご功績を称えて、立派に引き継いではる当代辺境伯であるイサンドロ様のことも褒め称えて、お茶会は和やかに終わった。


 フィデリア様は、領地の神殿を大切にするとおっしゃっただけで、王都の神殿には寄付しませんとは、一言も言うてはらへん。まぁ、誰でも意味くらいわかるはずや。お上品でたおやかな貴族女性たちの芯の強さがほのかに漂う貴族のお茶会ってかんじがして、素敵や。やっぱ、こうでないと。


「ありがとうございました。美しいだけではなく、教養も優しさも機転も必要だと実感しました」

「あなたのその言葉が嬉しいですわ」

フィデリア様の笑顔が嬉しかった。


 あの貴婦人の甥の方が御無事ですように。他にも似た立場の人がいはったら、ご無事ですように。赤の他人のうちのお祈りでも、きっと助けになるやろう。うちは夜のお祈りに、お願いを付け加えた。


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