幕間 幸せって何やろう
ウーゴ様が避暑地に手配してくれてはった護衛の騎士様のおかげで、ルアナ様は避暑地から逃げ出せた。ルアナ様が遺品やからとうちの鞄を持ち出してくれはったから、うちの大事な商売道具の鞄は、今もうちの手元にある。
いろいろあったし、今も問題はあるけど、うちの大切な人たちも、うちも元気や。それが一番。
ルアナ様、元気かな。ルアナ様とお別れした日と同じ晴れた空にふと思い出した。ルアナ様がお幸せでありますように。遠くに嫁いだルアナ様にうちが出来ることは、大地母神様へのお祈りだけや。
ルアナ様は恋人と結婚出来た。ご実家は子爵家やから財産はあるけど、ある程度までで、四人目の娘の持参金は、流石に難しかった。フィデリア様がそこを上手くとりなしてくれはった。
「真っ先に王都のこの屋敷まで、遺品を届けてくれたあなたの優しさへの、私なりのお礼です」
御両親が用意した持参金とフィデリア様のお礼とを合わせて、十分以上の持参金をもってルアナ様は嫁ぐ事ができた。
「このお礼は一生忘れません。この持参金があれば、嫁ぎ先で娘が肩身の狭い思いをすることもないでしょう。本当にありがとうございました」
ルアナ様の御両親は目には涙が光っていた。
「ルアナの優しさに私なりに報いただけです。お二人が育てられた素晴らしいお嬢さんが、一時期この屋敷で侍女として務めてくれたことも嬉しく思っています」
フィデリア様の言葉に、ルアナ様の両親の目から涙がこぼれた。
ルアナ様の御両親はルアナ様を本当に愛してはる。避暑地の別荘でルアナ様と同室になれて本当によかった。
それにしても、貴族の婚姻は本当に大変なんやな。御両親の言葉どおりならば、持参金があるからルアナ様は義理の御両親に蔑ろにされへんてことよね。つまりは、無かったら、嫁ぎ先でちょっと色々ってことやよね。優しくて素敵な人やのに。持参金で嫁いだ先での扱いが決まるってちょっと嫌や。
「私、息子が生まれたらイノセンシオ様のお名前を頂くわ。娘が生まれたらフィデリア様のお名前を頂くの。フィデリア様も許可してくださったわ」
ルアナ様は幸せそうやった。
「娘が二人うまれたら、二人目はコンスタンサよ。ありがとう。貴方のおかげよ」
「私ではなくて、ルアナ様御自身のおかげです。あの古い鞄を辺境伯様のお屋敷に届けてくれた優しいルアナ様ですもの。お幸せに」
「ありがとう。あなたもね」
再会したときのように、抱きしめてくれたから、うちもルアナ様を抱きしめた。
ルアナ様があなたもと言うてくれはったのは嬉しかったけど。うちは、どうなったら幸せなんやろう。今は楽しいけど。旅芸人のうちが、ずっとここにおるわけにはいかへん。うちら旅芸人は根無し草。彷徨い続ける定めの家なしや。風の向くまま気の向くままと強がりを言いながら。
フィデリア様は、うちをエスメラルダ様のお傍に仕える侍女にと思ってくださっているけれど。うちにそれが務まるんやろうか。うちは平民ですらないのに。
ルアナ様のことを思い出しとったうちは、色々上の空やったらしい。
石墨が石板にあたる硬い音がした。
『どうした』
こちらを心配そうに見るライがおった。
「大丈夫。ルアナ様と最初にお会いしたときのこととか、思い出しとったの」
夏が始まる直前にお知り合いになった。元気やろうか。なんとなく寂しい秋の空に思い出してしまう。
『冷えてしまう』
ライが差し出した手を、うちはいつもどおり握った。
『部屋に帰ろう。お茶が飲みたい』
「そうやね」
いつも通りに接してくれるライの気遣いが嬉しかった。




