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3)辺境伯の息子

 アスは、皇国の名家の御令嬢をお嫁さんにもらって、赤ちゃんと一緒に王国に帰ってきはってん。皇国の皇帝陛下が、それとなくイサンドロ様に打診してくれてはったから、イサンドロ様もカンデラリア様も知らんかったわけではないそうやけど。


 行方不明中の結婚やから、結婚式を挙げてはらへん。アスが、イサンドロ様とカンデラリア様に大目玉を頂戴しはったのも当然や。アスのお嫁さんのお母様が、カンデラリア様の親友でいはったから、先方の御両親が寛大で良かったけど。神殿に届け出してはるから、正式な結婚やけど。結婚式で結婚をお披露目する前に赤ちゃんやで。名家の御令嬢に、何してんねんほんまに。


 あかんやん。叱られて当然や。アスは年下のライと女の子のうちが、同情してくれると思ったんか、愚痴をこぼした。

「母上もエスメラルダも、本当に怖かった。父上よりも怖かった」

悪いのはアスやで。当然や。


 結婚式って、綺麗におめかしして、お祝いするもんやん。貴族の結婚式ともなれば、うちが参加させていただいた夜会よりも、もっと贅沢で豪華絢爛なはずや。新婦は綺麗なドレスをきて宝石とか沢山つけて、新郎もそれなりに着飾って、盛大なお祝いをしてお知り合いの貴族全員にお披露目するのが大切やってうちでも思うし。で、まぁなんというかほら、初夜はそのあとやって、旅芸人のうちでも思うもんねぇ。


 せいぜい叱られたらえぇやんかと思ったけど。うちは一生懸命神妙な顔を作って、きちんと真面目に話をアスの愚痴を聞いとるふりをした。


 ライは、ライやからね。笑うのを抑えられへんくて。

「笑い声がなくても、あなたが笑っていることくらいわかります」

ライより小さいうちの背中に中途半端に隠れて笑うから、丸わかりやねん。

『すまない』

ライは、それ以上言わんかったら良かったのに。

『面白くて』

余計な一言を言うから、アスは怒って出て行きはった。


「うち、ライが国王陛下に向いてない理由が、一つわかった気がする」

芝居でも王国の歴史でも、国王陛下ってのは、賢く優しく見せかけて、こっそり悪巧みをして、政敵を出し抜く人や。本人の眼の前で笑ったらいかんよ。うちでもがまんしたのに。


 優しい笑顔の裏で政敵を出し抜く有能な王様は、お芝居の題材になったり、歴史書にはっきり名前を刻まれとる。王様とはそういうもんやとうちは思っとったけど。珍しいから記録に残るんよね。今ちょっと欲しいわ。そういう人。


 国王プリニオ陛下と王妃パメラ陛下は、幼馴染の頃から愛を育み合って結婚したという触れ込みやのに。今は夫婦揃って不貞や。情けないわ。芝居にも滅多におらん無能、あかんあかん不敬や。えっと、どう言うたらえぇか、そうそう、もっと有能にならんといかん王様や。


 ライは、悪戯しようとしても笑ってしまったり、態度が怪しかったりで相手に分かってしまう。これでは悪巧みもへったくれもないやろう。まぁ、今のライが見せかけで、実はもっと凄い人かもって、考えたりもしてんけど。


 未だにうちと添い寝しとる甘えたが、そんなわけあらへんわ。無理無理。


 スレイに相談したこともあるんよ。兄として弟の自立を促してくれって。

「あれは、私と違って母の記憶が何もない。私達が育った場所には、私達に心休まる場所などなかった。君には迷惑だろうが、少し甘えさせてやってくれ」

まさか、頭下げられるとは思わんかったわ。王族やで。スレイと呼べと言われとるから、スレイと呼ぶけど。本当は第一王子シルベストレ殿下や。未来の王様やで。そもそもうちが名前をお呼びすることも、お目にかかることも難しい尊い身分の方や。


 弟のために、旅芸人でしかないうちに、頭を下げる兄の姿にうちは感動した。

「私のようなものとの添い寝が、おっしゃっておられるようなことと」

「おやおや。ここでの私はスレイだよ。随分と君は仰々しいね」

深くお辞儀をしたうちの言葉を、スレイは笑ってさえぎった。


 ライが言う通り、スレイのほうが国王陛下に向いとるとうちも思った。あのときは。ずっとうちがそう思えるように、行動してくれはったら安心やねんけど。それはそれでスレイやない気もする。


 スレイが出し抜かんといかんのは誰やろうか。スレイは出し抜いて、どうするつもりなんやろうか。


 うちは、あまり詳しくは聞かんようにしとる。うちは旅芸人、根無し草や。まつりごとは、うちには関係ないことや。


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