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1)王国の神殿

「いつまで愚かな振る舞いを続けるつもりなのでしょうね」

神殿から戻ってこられたフィデリア様を、うちは一人で出迎えた。ライはおらん。


 何度かお出迎えに誘ったことはある。

『嫌だ』

ライは、それ以上なにも言わんかった。強く握られたライの手に、うちは誘うことを諦めた。神殿のことを思い出したくないんやろう。仕方ないと思う。スレイとアスは、神殿と聞くと落ち着かなくなるライを連れていってくれた。剣の稽古か乗馬か知らんけど。いいお兄さんたちや。こういうときは。


 人払いをした静かな部屋で、フィデリア様にうちはお茶を用意した。

「ありがとう。コンスタンサ。本当に上達しましたね」

「ありがとうございます」

フィデリア様が褒めてくれはるのは嬉しい。

「あなたもお座りなさい。お茶は誰かと一緒に楽しむものです」

「はい」

フィデリア様と向かい合って座るのは緊張するけど、一番の勉強は実践やからね。頑張る。


「本当に王都の神殿には失望しました。大地母神様の前では世俗の権力は無意味だと唱えているというのに。自分たちが権力の下僕げぼくとは」

フィデリア様のお言葉のとおりや。


 うちは、大地母神様にお仕えする神官様たちを尊敬しとってんけどな。神殿での神官様の生活って大変や。早朝からのお勤めとか、儀式とか、本当に色々沢山やることあるはずや。第二王子ライムンド殿下であるはずのライも、相当に頑張っとったはずやし。


 ライも多分、色々苦労もしたと思うねん。神官になったら、世俗の身分は関係ないというけどな。成人前の少年が、突然逃げ込んできたんやで。身分関係ないとかいうて、立場が上のおっさんとかがいじめるやろ。


 とどのつまりがあれや。同じ大地母神様にお仕えする神官に、神官やったライは危うく殺されかけた。

「季節も変わりましたのに、お会い頂くわけにはまいりませんなどと、繰り返すばかりです。覚悟もなく愚かな振る舞いをして。神官の座に居座って愚かなことです」

フィデリア様はお怒りや。ライを殺そうとした連中の白々しい嘘を眼の前で聞いとるわけやから。お腹立ちも当然や。

「罪人を彼ら自身で裁く機会をと思っておりましたが。神官という立場にありながら堕ちたものです」


 神殿の神官様達は、神官ライムンドは王都の大地母神様の神殿で、大切なお勤めの最中やから、どなたにもお会いすることは出来ませんと言うだけや。


 あの穴蔵に閉じ込めるのがお勤めか。阿呆くさ。どうせ悪巧みをしとる誰かからしたら、実行した下っ端なんていつでもトカゲの尻尾斬りにするだけやろうに。往生際の悪いこと。


 王国には王国の法律があるように、神殿には神殿の決まり事がある。フィデリア様はお優しいから、神官様は神殿の決まり事のなかで裁かれたらえぇと思ってはったけど。それはもう無いということやろうな。


 王国の神殿は、皇国の大神殿には頭が上がらへん。その皇国の大神殿の大神官様は、皇国の黒真珠の君フロレンティナ様の次兄や。皇国の大神殿から暫く前に手紙が来て、少なくともライの問題の一つは解決しとる。


 王国の神殿が阿呆な言い訳してくれとるせいで、うちと添い寝をしとる甘えたなでっかい息子は、還俗も出来とらんかった。皇国の大神殿で手続きをしてもらってようやく還俗できた。まだ王国の神殿は知らんはずやけど。


 第一王子シルベストレ殿下であるスレイも、土砂崩れとか、大変な目にあったのは事実やけど。ついこないだまで生活しとったのは、皇国や。王国の権力争いが届かない安全な場所や。


 安全なところにおったお兄さんが、国王陛下になるって、ライはそれでえぇんやろうか。殺されかけて、声を奪われて、酷い目にあったのはライやで。なんか、途中でかっ攫われるみたいで、嫌や無いのかな。


 ライとうちが二人だけのときに、ライが国王陛下にならんでえぇのか聞いたことがある。

『私は国王になりたくない。ならないほうが良い。兄が生きていてくれて助かった。そもそも私は向いていない』

ライは本当に、そう思っとるみたいやった。確かに前一緒におったときと比べて、気負ったもんがない。今のほうが笑顔も多い。


 どういう人が国王陛下に向いているのかうちにはわからへんけど。うちの隣に座って、うちの手を握って離さへん甘えたが、国王陛下ってのはちょっとあかんのもなんとなくわかる。


 うちが戻ってくるなり添い寝も復活しとるし。本当ほんまにでっかい子供や。


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