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幕間 兄の見た芝居 (ライムンド視点)

 ウーゴの授業に人が増えた。主な生徒はコンスタンサだ。長く学問から離れていた私も生徒になることが多い。


 そこに何故か、時々だが、皇国で教育を受けていた兄スレイと、アキレスが乱入してくるようになった。その度に、コンスタンサが私を盾にするのが可愛らしい。毛を逆立てた子猫のようで愛らしいのだが、兄に馴染んでくれなくては困る。


 庭で二人寛いでいるときを選んで、コンスタンサに聞いてみた。

『コンスタンサは、何故、兄上が苦手だ』

私の問いかけに、茶の香りを楽しんでいたコンスタンサがそっぽを向いた。そらした視線の先に、石板を移動させる。こっちを向いたコンスタンサと目を合わせた。空色の瞳に私が映る。

「だって」

下から一生懸命睨みつけてくるが、可愛らしいだけだ。


「あぁいう言葉が軽い人はあかんの」

意味がわからない。

『どういうことだ』

私の隣に並んで座っていたのに。コンスタンサはわざわざ座り直して私に背を向けてしまった。

「聞かれても困るわ」

まだ短い髪の毛を、暑いからとリボンかなにかで器用にまとめて、首筋があらわになっている。


 うなじが目の前にあった。


「どうされました」

アキレスの声で、私は我に返った。アキレスの後ろにいるのは兄のシルベストレだ。兄を苦手にしているコンスタンサに、兄なりに気を使ってくれているらしい。


『コンスタンサが兄上を苦手なのは、兄上の言葉が軽いからだそうです』

「言葉が軽いとは何だ」

兄の言葉に、コンスタンサが私の背中に隠れてしまった。振り返ってコンスタンサをつつくが、一生懸命隠れて出てこない。


「言葉遣いといえば、芝居でしょうか。ここにくるまでに芝居を見たのですよ」

アキレスが何か思いついたらしい。

「長く男ばかりでしたからね。女性との喋り方がわからないと、いくつか芝居を見ましたね」


「もしかして、男の人が旅先で、色々な女の人に、恋歌を歌って、仲良くなってという芝居ですか」

私の背中から、コンスタンサが顔をのぞかせた。


「それもありましたね」

「それ、あかんやつです」

肯定したアキレスに、コンスタンサは呆れ顔だ。


「言葉が軽くて、軽薄な男は駄目っていうお芝居です。あれは。男の人は最期は惨めに死んでおしまいになるのは、そういう意味です。あれは憎まれ役です。最後には破滅して終わるんですから」

やれやれと全身で訴えるコンスタンサは、兄を嫌うのを辞めてくれたらしい。


「もしかして、エスエラルダ様の前で、あぁいうこと」

「言ってない」

「言っておられませんよ。緊張して挨拶だけでしたから」


 コンスタンサがほっと溜息を吐いた。

「それならよかったです。あんな芝居に出てくる阿呆男の真似なんてしたらいけません」

コンスタンサの年齢などわからないけれど。多分私たちのなかで、一番若いのだろうに、姉か母のような口調で兄を教え諭す様子が可愛らしい。


「なら、どうしろというんだ」

どこか途方にくれたような兄に、コンスタンサが微笑んだ。

「そのままで、いいと思いますよ。子供の頃から親しくしておられたのでしょう。それなら今から変に、取り繕わなくても大丈夫ですよ」

「そうか」

コンスタンサの優しい言葉に、兄は満足したようだ。アキレスを伴い東屋を去る兄を、私とコンスタンサは見送った。


「あのお芝居やったんねぇ」

コンスタンサは呆れ顔だ。

『どんな芝居だ』

「さっき言うたままよ。男の人があっちこっち旅して、旅先で片っ端から女の人を口説いて回るねん。二股三股どころやないよ。で、結局、全員の女の人から嫌われて、帰る家も宿もなくて、野垂れ死にするだけ」

なかなかの内容だ。


「最後までちゃんと見んかったんかな」

コンスタンサが首を傾げる。

「どっちにしても、言葉が軽い人はいかんのよ」

勝手に納得して頷いているコンスタンサが、少しは兄に馴染んでくれるといいが。


 私の思惑など知らないコンスタンサの手に、私は菓子を一つのせてやった。

「ありがとう」

この笑顔が私に向いているというのは、とても嬉しい。


「あいつ、どこ見てる?」

「良いではないですか」

ライムンドが、どこを見て(凝視して)いるか、スレイとアスの二人は気づいています。


 ここで話題となっている芝居は、例えるならば、歌劇ドン・ジョヴァンニでしょうか。歌詞の日本語訳を初めて見たときには、作者は驚きました。

 全年齢用にR18要素をとりのぞいた歌劇ドン・ジョヴァンニ異世界風(ちょっと教育指導的)のお芝居をご想像いただけましたら幸いです。


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