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9)政(まつりごと)

 避暑地にある王族の屋敷は、王家の財産や。当然やけど警備兵はおる。そういう予算を動かすには、偉い人の、つまりは宰相や宰相が委任した人の決済が必要や。


 ところが、現宰相閣下は、王妃パメラ陛下と一緒で、仕事をせぇへんそうや。何しとるか知らんけど。


 困り果てた文官達が頼ったのが先の宰相、先だって書庫の管理官様としてうちがお会いしたウーゴ様や。孤児院への予算が途切れへんようにしてくれてはったのは、ウーゴ様やった。署名のない書類がまかり通った理由がそれやね。文官様たちが結託しとってんよ。


「誰かが、密告したりはしないのですか」

ウーゴ様に、何かあったら大変や。政治の芝居では、裏切りと密告はあって当然やけど。現実では止めて欲しいわ。

「そうすると、誰の給料も支払われなくなるからねぇ」

呵呵と笑う人を怖いと思ったのは初めてや。


「実際に数ヶ月無給だった彼らを救ったのは私だ」

男を掴むには胃袋やって、宿のおばちゃんに言われたことあるけど。ウーゴ様は、男だけやなくて家族の胃袋を掴んどるわけか。そりゃ、文官様たちも結託するし、武官様たちも同じやろうね。


 避暑地にウーゴ様が人を送り込めたのも、現宰相が仕事をせぇへんからや。ルアナ様も無事やった。現宰相は舞踏会とかで偉そうにはしとるらしいけど。舞踏会の準備を誰がやっとるかくらい、考えんのかな。


「宰相は、仕事をしていないのに、大問題が起きてない理由を考えないのでしょうか」

座長は一座のために、食料の確保とか、水の確保とか、どこに泊まるかって、いつも一生懸命やったで。馬車の修理代の代わりに、うちを置き去りにしてくれたくらいやし。今思いだして、また座長に腹たってきた。


『己が威信に溢れているから、面倒なことは部下がやっているとか思っているのだろう』

ライの言葉にうちは呆れた。

「宰相が威信に溢れてるから、でなくて、本来は給料のためでしょうに」

ライも頷く。

「一部の貴族だが、領地の経営を執事に任せきりにしているものもいる。それと同じように、誰かが勝手にやればいいとでも思っているのだろう」

スレイも顰め面や。


「おや、では手紙の返書を早急に仕上げていただきたいですね」

アスがひらひらと手元の紙を振り、スレイがますます顰め面になった。スレイは最近、あちこちと手紙でやり取りをしとる。うちは内容を知らん。予想は出来るけど。

「未来の義兄に何たる態度ですか」

結果、アスの勝利や。未来の義兄は強いな。エスメラルダ様の尻に敷かれるスレイが目に見えるようやわ。あれこれ悩みながら手紙を書くスレイを見るウーゴ様の目が、孫を見るようになってはるのも当然やね。


 手紙のことはスレイにまかせるとして、うちは一つ気になることがあった。

「領地経営を任せきりって、つまりは任された人が、やりたい放題ってことになりませんか」

『好き勝手できるだろうね』

ライは笑顔でうちの予想を肯定してくれた。


「好き勝手にされて、気づかないものですか」

「突然領地からの収入が減れば気づくだろうが。長年少しずつならば、無理だろうね」

先の宰相、実は今も宰相をしてはるウーゴ様の笑顔が怖い。

「無論、私はそんなことはやっていないよ」

うちもそう思う。どちらかというと、ウーゴ様はやっている人を知っていて、脅迫してそうや。うちはウーゴ様がライの味方で、本当に良かったと思った。


『現宰相の領地は、調べたら面白いことになっていそうだな』

ライの笑顔が、ウーゴ様の笑顔に重なった。何するつもりなんやろな。ちょっと怖いで。面白そうやけど。


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