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5)二人目

 鋭く踵を打ち合わせる音がした。


 今度は誰が来るんや。もう変な人は嫌やで。うちはライの背中で縮こまった。

「お祖母様、申し訳ありません。私が目を離した隙に。お嬢さんもすまないね。妹の友達になってくれてありがとう。この男は長く男ばかりのところで暮らしていたから、年頃のお嬢さんとの口の利き方を知らない。失礼した」

ということは、この人がアキレス様か。黒くゆるい巻き毛がエスメラルダ様と同じや。スレイと呼べと言うた人の頭に、拳骨がお見舞いされとるけど。細かいことは気にせんとこ。


「私はアキレス、エスメラルダの兄だ。妹の友達に会えて嬉しいよ。当面私のことはアスと呼んでくれ」

よかった。エスメラルダ様のお兄様のアキレス様がまともな人で。

「アキレス! 」

「私はアスです。皇国に居た頃からそうだったでしょう。もう忘れたのですか」

「アス、痛かったぞ」

「おやおや、スレイ。君は女性に失礼な態度をとったことを謝るべきでしょう」

ぷいっとよそ見をしたスレイの頭を、アスが鷲掴みにした。

「スレイ。確かに王族は軽率に謝るべきではありません。だが、人の上に立つ者は、人の手本となるべきだと教わったはずですが。そもそも謝らなければならないことをすべきではないという根本を、君は忘れているようですね」


 そうやそうやその通りや。ライを盾にしたまま、うちは頷いた。ライが優しくうちの頭を撫でてくれる。ライはこんなにまともなえぇ人やのに。お兄さんも弟も、何で変やねん。


「わかった。怖がらせた。すまない」

偉そうにしとる軽薄な王族が、言葉だけでも謝るなんて、うちの予想外やった。


「痛いな」

拗ねた子供みたいな謝罪は、アスの基準には達しとらんかったらしい。アスの手は、スレイの頭から離れていない。というよりすじが立ってるから、相当力入れてるんと違うか。あれ。

「それが謝ったと思える君の感性が問題です。全く、私は君の躾を間違えましたね。情けないことです」

アスの大袈裟な溜息に、スレイが顔を歪めた。

「何故、私がお前に躾けられるんだ」

「あぁ全くです。何故私が君を躾なければならないのか。なんと嘆かわしいことか。これでは妹の夫にはふさわしくないと父上に報告しなければ」

「何故そうなる! お前は家長ではないだろう」

「あぁ無論。家長は父上です。嫡男の私が、父上に進言するのは当然です」

「卑怯だぞ」

「躾のなっていない男のところに、可愛い妹はやれませんよ。当然です」


 さっきまでの話は、どこにいったんやろうか。フィデリア様も呆れたように二人を見てはるだけや。


 乾いた音が響いた。ライが手を叩いた音や。


 スレイとアスの阿呆な言い争いが止まった。

『お二人とも、お静かに。そもそもの話が進みません』

年上の男二人を黙らせたライは威厳があって、ちょっと格好良かった。


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