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5)王妃パメラ陛下の面子とうちの意地

 書庫に籠もっているだけなら楽しかったのに。もう少しで辺境伯様のお屋敷に帰るとこやったのに。


 王妃パメラ陛下、正真正銘の阿婆擦あばずれから、避暑地に行くから同行するようにという命令が来た。王家の夏の別荘があるからとかなんとか、自慢たらしいけど。自分のものやない避暑地を自慢されても、しらけるわ。阿呆くさ。


 なんで王妃パメラ陛下は、うちがおることを忘れてくれへんのや。恨めしいわ。

「おやおや、賠償金の支払いもあったろうに。王家は随分と豊かでいらっしゃる」

ウーゴ様は敬語を使ってはるけど、内容が不敬や。これは不敬なんか不敬とちゃうんかどっちや。管理官様ほど賢くないうちにはわからん。

『帰ろう』

ライは、うちの首根っこを掴んで今すぐ飛び出しそうな勢いや。


 そうしたいけど、そうはいかん。うちは届いた書類を睨みつけた。避暑地に行くから用意しなさい云々や。面倒くさ。連れて行ってくれんでえぇのに。


 そやけど、うちのここでの名前、エスメラルダで名指しでの書類や。ここで尻尾巻いて逃げ帰るなんて嫌や。

「帰りません」

今ここで、名指しされとるうちがおらんようになったら、きっとフィデリア様にご迷惑がかかってしまう。お世話になっている方にそれはいかん。


『何故』

ライは隠し通路から王宮に出入りしてる。いざというときに使って逃げるようにと、うちも一つ教えてもらった。他にもあるんやろうけど、あえて聞いてない。ライを困らせたくないしね。


 ライが王妃パメラ陛下の避暑先に潜り込むのは無理や。フィデリア様やったら、正面から堂々と乗り込んでくることは出来はるやろうけど。そこまでフィデリア様に頼るのは違うとうちは思う。


 ライは、辺境伯様のお屋敷で留守番をしてもらうしかない。フィデリア様にライを見張ってくださいとお願いしたら、フィデリア様も王都にいてくれはるかな。お若くはないから、無理していただきたくないねん。


『君に何かあったらどうするつもりだ』

ライが心配してくれとるのはありがたいけどね。ライは心配される側の人なんよ。そもそもうちに何かして、何かあるかいな。王宮におるその他諸々の侍女の一人やで。腹立つわ、あの阿婆擦れ女。


「ここで逃げたら、女がすたるわ」

うちの口から飛び出した皇国語に、ライが天を仰ぎ、ウーゴ様が呵呵と笑った。笑い事やないよ。尻尾巻いて逃げるのが嫌なだけや。どうせ嫌がらせするつもりなんやろうけど、そうはさせへんからね。


「まぁ、伊達に歳を重ねてはいないからね。儂にも知り合いくらいはいるからまかせなさい」

ウーゴ様の言葉に、ライが石板に何かを書いて見せた。


「儂に任せなさい。まだ若い君が心配することではないよ。君は儂の付き人だ」

どこか慰めるような、優しく温かいウーゴ様の言葉にライが俯いた。うちが見つけた時と比べて、大きく広くなったライの背中を、ウーゴ様が慰めるかのように優しく触れていた。


 ライのお母様の魂は、もう大地母神様の御許におかえりになった。父親は、おるけどおらんのと一緒や。そやけどライには、父親みたいにライを導いてくれる人がいる。


 一座は家族やと座長は言う。ライにも、一座とは違うけど、血が繋がっとらんけど家族みたいな人はおる。うちはちょっと安心した。


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