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1)書庫の管理官様

 滅多に人がおへん書庫で、うちはこの国の歴史書を読んどった。日課や。掃除はしたよ。仕事やからね。書物ってのは誰かが読むためにあるねん。そやからこれも立派な書庫のお仕事。


 そろそろ髪の毛を切りたい。鬘が安定するには、ある程度短いほうがえぇからどうしたもんかと思っとったときや。


 書庫にやって来た人を見て、うちはびっくりした。

「おや、君はここの清掃担当か。よろしく頼むよ。私は書庫の管理官だ」

白々しい自己紹介やけど、うちは役者やで。こういうときに、相手の下手な芝居に合わせるのも仕事や。

「よろしくお願いいたします。管理官様」


 フィデリア様のお屋敷で、ライとうちの政治の先生やった前の宰相のウーゴ様や。ウーゴ様がどうやって書庫の管理官に収まったのかなんて考えたらいかん。うちにはわからん政治の世界や。まぁ、元々宰相様やし、フィデリア様とも親しくお話をしてはったから、色々と伝手つてはあるんやろうけど。それよりも問題は、隣におる人や。

「あぁ、彼は私の付き人だ。私はもう若くないからねぇ。色々と手伝いが必要だ。少し大人しい物静かな若者だが、よろしく頼むよ」

ウーゴ様の隣には、肩口までの緩やかな金髪の若い男の人がおった。長い前髪で顔は半分隠れとる。そやけどそんなん、隠していないのと同じや。


 あかんやん。本人は笑顔やけど。人が髪の毛を切ったときに散々文句を言ったくせに。自分は何なん。


 金髪のライがおった。艶があって真っ直ぐな、黒真珠の姫君譲りのあの綺麗な黒髪はどうしてん。まったく。髪色は違うけど、顔はそのままやからわかるやんか。


 うちは王家の肖像画を沢山見た。掃除するからね。どこからどうみても、肖像画の人たちの血筋の顔や。うちが見てわかるくらいや。この王宮にずっとおる人やったら、ライが誰かわかって当然や。


『よろしくおねがいします』

石板の白々しい挨拶が怖い。ここは王宮や。権力をもつのは、亡くなりはったライのお母様、皇国の黒真珠の君フロレンティナ様やない。フロレンティナ様の喪中に再婚したみだらな国王プリニオ陛下と王妃パメラ陛下や。


 この王国の王家はいびつや。


 第一王子シルベストレ殿下は、皇国へ向かう旅の途中に土砂崩れにあい行方不明になった。同行してはった辺境伯であるイサンドロ様の御長男アキレス様も消息不明や。


 事故があった峠の道は今も土砂が塞いどる。お二人の御遺体も同行していた他の人たちも見つかっていない。近づくことが出来ないから探せないって公表されとる。そやから今も行方不明の扱いで、王家の人々はどなたも喪に服してはおられない。たった一人、神官となられた第二王子ライムンド殿下を除いて。


 第一王子シルベストレ殿下の次に狙われるのは、ライや。既に殺されかけたのに。王宮におったら危ないやんか。


『危ないから帰り』

うちが石板に書いた言葉に、ライは首を振った。

『私はここに用がある』

それはそうやろう。そやけどライは、他の人にやらせんといかん。ライは自分でここにおったらいかん。


 ライのお兄さん、第一王子シルベストレ殿下が行方不明の今、順番どおりならば、第二王子ライムンド殿下が王太子になる。ところが第二王子ライムンド殿下は神殿で神官になったから王位継承権は無い。そやのにしつこく、ライを生き埋めにしようとした連中やで。生きてるの見つかったら、危ないやんか。


 今は第三王子ペドロ殿下が事実上の王太子や。王妃パメラ陛下は今がこの世の春やろうね。国王プリニオ陛下も、黒真珠の君の喪中に結婚したくらいの愛妻の子が王太子となるんやから御目出度おめでたいことやろうね。色々と。


 それやのに国王プリニオ陛下は、今も行方不明の第一王子シルベストレ殿下を王太子に指名したままや。


 色々と変やねん。この王国。継承権が宙ぶらりんの今、第二王子ライムンド殿下が神殿を抜け出したなんて知られたら、それも王宮におるのが見つかったら大変なことになるやんか。せっかく助かったのに。命は一個しか無いのに。大切にせんとあかんねんで。それが大地母神様の教えのはずや。


 ライが前に、ライが生まれる前からの因縁らしいって言うとったから、歴史を調べとったけど。うちは因縁をまだ見つけられてない。


『帰る時は君と一緒だ』

くだらん。寝ぼけたことを言う取る場合ちゃうわ。うちは阿呆なことを言うとるライを睨んだけど、ライも平然と睨み返してきた。生意気な。でっかい息子のくせに。うちが手握ったらな眠れへんかった甘えたのくせに。そういえばライは、うちが王宮に来てから、ちゃんと眠れとるんやろうか。


「おや、君はなかなかに感心だね。歴史を学んでいたのか。では少し、歴史の話をしようか」

前の宰相ウーゴ閣下やないわ、えっと書庫の管理官ウーゴ様の言葉で、うちらの睨み合いは終了になった。


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