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2)王宮

 王宮の中は、見事に髪色で分かれとる。黒髪と栗毛は全部下働きや。これはあかんわ。王国を治める王家が、髪色で貴族も国民も分断しとる。終わりの始まりや。このままやったら、いつかこの国は終わる。皇国が攻めてきて、皇国軍が王宮に到達したら、黒髪や栗毛の人は、自分たちを虐げた金髪の王家のために、自分の命を危険にさらして戦ったりはせんやろう。


 皇国での美男美女の条件は、黒の直毛や。そやけどそれだけのはずや。髪色だけで、人の扱いを変えたりせえへん。少なくともうちは、髪色を理由に皇国で差別されたことはない。皇国の騎士団の式典も見たことあるけど、まぁ、見事にバラバラやった。女の騎士様もいはるんよ。少ないけど。騎士姫様の故国やからね。


 王国にいる黒髪や栗毛の人が、皇国が髪色で人の扱いを変えないと知ったら、皇国の民になりたいと思うんちゃうやろか。王国の人は、それを裏切りというかもしれんけど。そもそも最初から裏切っとるのは王家や。王家はこの国の代表やろうに。


 王家と辺境伯爵家が対立するわけにはいかへんって悩んではったフィデリア様は立派な方や。ライは、統治者の問題だと厳しい顔をしとった。うちは、統治者がどうあるべきかをきちんと考えるライが王様になったほうがえぇと思う。


 うちは、壁に並ぶ肖像画を眺めた。この国の歴代の国王陛下の肖像画が並んどる。うちが会ったこともない人たちや。歴史の先生が教えてくれはった人たち、王国のためにそれぞれの時代で国を治めてきはった国王陛下たちは、今のこの王国を見たら、どう思いはるんやろう。


 特に、先王陛下がどう思いはるんやろうか。皇国との関係を強化することで王国を存続させようとしはったのに、息子がそれを全部ひっくり返そうとしとる。そのせいで、内側から国は壊れそうになっとる。

「王様も大変やったやろうにね」

うちの他は誰もおらん静かな部屋で、肖像画に積もった埃を順番に払っていった。


 歴史の先生のお話を聞いてから、うちは王国の先王陛下を尊敬する気持ちが強くなった。


 皇国の方が王国よりも強い。自分たちより強い国を相手に、王国は国境を守るために戦っとった。何度も戦争しとった相手に、長く戦っていた歴史があるというのに、頭を下げて傘下に入るってのは、相当に苦渋の決断やったんちゃうんやろうか。きっと先王陛下御自身も葛藤があったやろうし、貴族の反対もあったやろう。それでも皇国との関係改善を成し遂げはった。うちは先王陛下を尊敬しとる。


 王国が皇国を相手に戦争ばかりしていたのは、うちが生まれる前の話や。その頃の王国をうちは知らん。そやけど、行く先々で生活が良くなったって聞く。荷役とか雑用に村の働き手がとられないから収穫が増えたとか、畑や家が焼かれたりしないから安心やとか。先王陛下を尊敬しとる人は多い。


 今、先王陛下の思いを引き継いでいるのは、妹殿下のフィデリア様と、辺境伯のイサンドロ様と皇国から嫁いでこられたカンデラリア様や。


 もう亡くなりはった人やけど。うちは先王陛下が可哀想な気がした。先王陛下は王国のために、色々な葛藤を乗り越えて、皇国との関係を改善して国境争いが無いようにしてくれはった。そやから王国は戦争をせんでよくなって、豊かになった。その豊かさを享受しとるのに、皇国との関係を悪化させようとしているのが今の国王プリニオ陛下や。かなりの親不孝な人や。


 うちは、先王陛下の肖像画の埃を特別に丁寧にはらって、できるだけ綺麗にして差し上げた。少なくとも、ろくに戦えへん旅芸人一座が皇国と王国を自由に行き来できるのは、先王陛下のお陰や。一座の皆からの感謝の気持ちをこめて、できるだけ丁寧に掃除した。


 大地母神様の御下に還った先王陛下の魂が、どうか新しい命を幸せに生きておられますように。うちは大地母神様にお祈りをした。


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