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4)辺境伯家の侍女エスメラルダ

「エスメラルダ。元気に帰ってくるのですよ」

フィデリア様が抱きしめて下さった。おばあちゃんがおるって、こんな感じなんやろうか。フィデリア様に申し訳ないけど、ちょっと嬉しい。


『気をつけて、無茶をしないで。何かあったらすぐ逃げるんだ』

表情が硬いライの言葉にうちは頷いた。

「うん。大丈夫やよ。無茶はせぇへんで、ちゃんと逃げる。うちの師匠はクレト爺ちゃんやもん」

一座におったころを思い出して欲しかったから、皇国語をつかったうちに、ライが顔を顰めた。

『クレトは強いけれど、君は弱い』

言いたい放題で、ライも酷いなぁ。そのとおりやけど。


「うちが弱いくらい知っとるよ。そやから、クレト爺ちゃんはうちに逃げるために戦えって教えてくれたんやから」

クレト爺ちゃんから逃げられたら、大抵の人からは逃げられるはずや。うちの言葉にライが苦笑した。やっと笑ったか。よかった。ライはクレト爺ちゃんのこと、よく知っとるもんね。でっかい息子と名付けた名付け親のやんちゃっぷりを思い出したんかな。


 ライが、うちの髪の毛に、金髪の鬘にそっと触れた。いいかげん諦めたらえぇのに。髪の毛はすぐ伸びてくるもんや。

『気をつけて』

「はい。気をつけます」

ここは王国やからね。ご挨拶は真面目に王国語で、手を握ってお別れや。そう言えば、ライは今日から一人で寝ることになる。大丈夫やろうか。夜はライが寝付くまで、うちがライの手を握ってあげとったからね。寝台は別やよ。あたり前やけど。時々夜中、ライが手を伸ばしてうちがおるのを確かめとるのは知ってる。


 ライのことがちょっと心配で、うちらしくもなく悲しい気持ちになっとったときや。

「君のライに余計な虫がつかないように、見張っておくから、安心しとけ」

驚いたうちが何か言う前に、調理長は、片目をつぶって離れていた。


 本来、虫や言われるのはうちのほうやで。まぁでも、ライが誰か、お屋敷の人でも知らんというのは安心や。ライが狙われる心配が減るからね。そういう意味でもうちが役に立てたと思うと嬉しい。


「美味しいお食事と、暫くお別れと思うと悲しいです」

「嬉しいことを言ってくれるねぇ、コンスタンサは。じゃなくて、エスメラルダは。帰ってくるときは早めに知らせてくれ。好きなものをつくってあげよう」

「ありがとうございます。楽しみに頑張ってきます」

調理長はえぇ人や。うち、厨房の人たちとも仲良しやよ。練習しとる騎士団が食べる軽食があるねんけど。結構な量なんよ。全員よく食べはるから。運ぶの大変そうやったから、うち手伝っとってん。練習中のライの顔見に行くついでに。


 ちょっと手伝ってる間に厨房の人と仲良くなって、調理長にも優しくしてもらえるようになってん。ライがそのお溢れに預かって、いろいろ食べさせてもらっとったけど。ライはどれだけ大きくなるつもりやろか。背は伸びたみたい。袖が少し短くなったから。


 ライとは、ほんまに長く一緒におったんやな。


 仲良くなったみんなに見送られて、うちは馬車に乗った。


 ちょっと寂しいな。うちは座長が置いて行ってくれた鞄を抱きしめた。古い鞄やけど。芝居の知恵がつまっとる鞄や。この鞄がきっとうちを守ってくれる。


 せっかく王宮にいくねんから。うちが主役の芝居の台本を書いて、座長にあっと言わせたるねん。大丈夫や。うちは、悲しくなる自分の気持ちを奮い立たせた。


 今日のために、うちは準備した。阿婆擦れやなくて、品位の欠片もない王妃パメラ陛下が、うちを見たらなんて言うかが楽しみや。


 あんまり虐められませんように。良い台本が書けますように。うちは大地母神様にお祈りをした。


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