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2)幸せって何なんやろう

 今のライに他の案は出せへん。フィデリア様に匿われてるライには、自分一人しかおらへんし、何の権力もない。財力もない。なにも出来へんねん。突きつけるようで可哀想やけど、ここで匿われて大人しくしとく以外に、今のライはなにも出来へんし、したらあかんねん。


 黙りこんどったライが、石板に書いてフィデリア様に見せた。

「それはあなたの判断に任せましょう」

フィデリア様のお声が、いつになく重々しく静かやった。

「あなたが必要だと思うのであれば、あなたの責任で教えなさい」

フィデリア様の言葉に、ライが丁寧に礼をした。


 ライが反対するとは思っとったけど。ライがあんなにうるさい、えっと声が出えへんからうるさいというとちょっと違うけど。大反対するとは思っとったけど。結構あっさりと、ライは折れた。仕方ないけどね。


 ちょっと予想外に、ライが落ち込むようなことになってしまった。うちはちょっと、ライが可哀想になった。今の匿われとるライに、あんたは今何も出来へんって突きつけるつもりは、うちには無かってんけど。優しい人やから。気にするやろうし。可哀想や。ライのせいやないのに。


 諸悪の根源は、阿呆ぼんペドロ殿下のお母ちゃんや。阿婆擦あばずれ王妃パメラ陛下が、エスメラルダ様を呼び出すのが悪いねん。もう阿呆息子の婚約者でも何もないのに。そもそも国王プリニオ陛下は何をやってはるんやろう。後妻の暴走くらい止めたらえぇのに。


「婚約者として王族の礼儀作法を教えるとでも書いてあれば、既に婚約者ではありませんし、私が教えますからと、断ることも出来たのですが。王宮の礼儀作法をと、曖昧なことを言っています。貴族の令嬢が時として、自分の家よりも高位の貴族の屋敷で行儀見習いをすることがあります。おそらくはそれをと言うのでしょうが」

フィデリア様のお手が、強く握られとって、相当怒ってはるのがわかる。


「パメラの実家は子爵家でした。王妃となるときに、強引に伯爵家になったような家の娘です。パメラがここに行儀見習いに来ることはあっても、本来こちらから出向く必要はありません。それもわからない愚か者とは」

えっとまた、怒髪天になってはる。色気で成り上がった子爵家の阿婆擦れが、あ、違った、品位の欠片もなく殿方を相手にふしだらなことをなさった御方が、辺境伯様の御令嬢に礼儀作法を教えるなんて、そもそも変や。教わるならわかるけど。


「私も反対はしたいのですが、王家と辺境伯爵家が表立って対立しては人心が乱れます」

フィデリア様のお手元の扇が折れそうやねんけど。国のためを考えるフィデリア様のほうが、立派な王族や。誰かさんたちと違って。


 うちの視線に気づいたライが、そっとフィデリア様のお手を優しく包んだ。

「ライ。あなたが無事であることの感謝を、大地母神様にお祈りしています。あなたに何かあってはいけないのです。あなたはまず、自身を守ることを考えねばなりません」


 フィデリア様の言葉に、ライがまた石板になにか書いた。

「ライ」

フィデリア様が優しくライを抱きしめた。優しくて悲しい光景やった。


 お貴族様はきっとみんな、お金持ちで幸せなんやろうなと、うちは憧れとったけど。ライは可哀想や。フィデリア様も大変や。


 幸せって何なんやろう。


 フィデリア様よりも、ライのほうがずっと背が高い。そやけど、フィデリア様に抱きしめられとるライは、小さな子供みたいやった。




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