8)女性同士の内緒の話
使者が三人目、四人目となった。呆れたうちはライに質問した。
「手紙持ってくるだけやのに。何で毎回毎回別の人がきて、婚約が解消になったって聞かされて、全員びっくりして帰るんかな」
ライが少し顔を顰めた。
『王宮では、秘匿されているのだろうね。知った者も己の胸の内に秘めたままにしているのだろう。そのまま辞めているのかもしれない』
「それ、あかんのとちがうの。大事なことは、報告せんといかんのとちゃうの」
うちの言葉に、ライは溜息を吐いた
『報告すべきだと私は思う。だが、私が彼らの立場ならば、今の王宮では報告しないだろう。国王と王妃が秘匿している内容を、口にして無事に済むとは思えない』
「それって」
『統治者の問題だ』
ライが厳しい顔をしていた。
『知り得た重要な情報は、必ず報告すべきだ。報告を聞いて国王やその他が、快不快のいずれを感じるかが重要ではない。耳に心地よい話ばかり聞いていては、政が腐る。王宮はいったいどうなっている。皇国との関係もあるが、他にも隣国はあるというのに』
夜、うちの手を握って眠るライやけど。でっかい息子とクレト爺ちゃんに言われるライやけど。夜中に何度もうちがいるのを確かめているライやけど。ライの甘えたはうち、よく知っとるけど。国のために憤るライをみていると、本当に王族なんやなって思う。
うちは、阿呆ぼんペドロ殿下より、ライが王様になったほうが王国のためになると思うよ。甘えたやけどね。
「心配やね」
うちの言葉にライは頷いた。ライやフィデリア様のほうが、王国のことを考えているとうちは思う。うちは王国に愛着なんてないけど。恩人のイサンドロ様や、お世話になっているフィデリア様と、お優しいカンデラリア様と、お友達になってくれはったエスメラルダ様の国やから。国のことを考えるライが王様になったほうがいいと思う。
国王プリニオ陛下も阿婆擦れ王妃パメラ陛下も、阿呆ぼんペドロ殿下に見切りをつけて、二人目、三人目つくったらえぇのに。何でそうせぇへんかったんやろ。まぁ、同じようなのが人数だけ増えても大変か。それはそれで。
難しい顔で考え込んでいるライを見ていて、うちはふと、思いついた。ちょっと反対しそうな誰かさんがおるから、どうしたもんかなとは思うけど。
五人目の使者が来て、また唖然として帰った。あかんわ。どう考えても王宮はおかしい。うちは、うちの思いつきを実行することにした。
「フィデリア様、お耳をお借りできますか」
「あら。何かしら。コンスタンサ」
フィデリア様が、そっと耳に手を当てて、少し私に体を寄せてくれはった。フィデリア様は、何をしはっても優雅で素敵やわ。
うちがライに聞かせたくないのが気に入らんらしく、ライの目が吊り上がっとる。
「女性同士の内緒の話よ」
にっこり笑って誤魔化そうとしたけど、あかん。ライは完全に怒っとる。大叔母様に嫉妬やなんて、心が狭いねぇ。ライも。ま、えぇわ。うちはフィデリア様のお耳に囁いた。
「私がエスメラルダを用意します」




