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7)王宮からのお使い2

 貴族に仕えるってのも大変やな。手紙一つ運ぶにしても責任はあるやろうけど。届け先の人に、自分のご主人の非常識とか怠慢とか色々を教えられて、このあとどうやって真面目に仕事するんやろ。


 辞めたくならへんのかな。来たときとは別人みたいになってた使者に、うちは同情した。


「やはり、そういうことでしたか」

『あの日、即座に書類は作成して、神殿に提出したのですが』


 フィデリア様とライが難しい顔で話をしとった。

「王都の神殿が信用できるかどうか、疑問でしたから。皇国の大地母神様の大神殿に使者は送っております。万が一を考慮して、使者は一人ではありませんから。確実に届くはずです」

フィデリア様の言葉に、ライが頷く。


「この国の貴族の大半からも、承知したという返事は届いておりますし。やはりプリニオもパメラも、ペドロの暴走を無かったことにするつもりだったようですね」

重々しい雰囲気はやっぱりそれが原因か。このままで、エスメラルダ様は、大丈夫やろうか。

「エスメラルダが領地に戻っていたのは幸いでした」

フィデリア様のおっしゃる通りや。


 他にも、うちは気になることがあった。

「書類を即座に提出って」

私の言葉に、ライが微笑んで頷いた。

「あの日、大地母神様の御許に届いたって言うてくれた神官様って」

あの夜会の日、純白の装束を来て頭から白い布を被った神官様がいはった。うちの言葉にライが頷いた。

「あれを言うてくれはったのは、ライ? 」

うちの質問に、ライはまた頷いた。


 少し若い男の人の、よく通る真っ直ぐな綺麗な声やった。うちはライの声を聞いたことがあったんや。でももう、あのライの声は、聞くことが出来へんのや。

「あの時、心強かったわ。ありがとう」

悲しいけれど、声が出なくなった当人のライが、何も言わんと微笑んでるねん。うちが悲しんどる場合やないわ。

『どういたしまして。君も見事だったよ』

ライが褒めてくれると嬉しい。あれは舞台やないけど、うちの初めての主役やった。

「ありがとう。うちも褒めてもらえて嬉しいわ」

名前も知らない神官様を、うちは穴蔵で見つけたと思っとったんやけど。その前に、うとったんやと思うと、ちょっと嬉しい。


「王国の神殿は、やはり問題です。私達が直接何かすることはできませんし」

フィデリア様が難しい顔をしはった。

「あとは、プリニオとパメラが、ペドロの仕出かしをなかったことにしたいようですね。大半の貴族には通知しましたから、なかったことにはなりませんけれど。婚約を維持したいのか、賠償金を支払いを拒否するつもりか、存じませんが。ペドロもあれで王子ですから。他の婚約の申込みくらいはあるでしょうに」

王子やからね。中身はあれやけど。ものは考えようやしな。


 フィデリア様もご心労のせいか物憂げや。

「いまさらエスメラルダに何の嫌がらせだか、未練だか。いずれにせよ面倒ですこと」

今だけのことやったら、エスメラルダ様が王都にいはらへんからなんとかなりそうやけど。今だけで、すむわけがないしね。


 フィデリア様のお兄様である先王様の融和策をすすめるのであれば、第三王子ペドロ殿下と、皇国の皇族のお血筋であるエスメラルダ様の婚姻は必須や。


 そやけど、フィデリア様はそのおつもりはないご様子や。他の方ならともかくあの阿呆ぼんペドロ殿下やから、お気持ちもわかる。エスメラルダ様が犠牲になるだけやし、エスメラルダ様が嫁いでくれはる有り難みがわかる頭はついとらんやろ。イサンドロ様も、婚約が無くなって喜んではったし。


 一応、今のところ表向きは国王陛下になる予定の王子様やのに、やっぱり人間は性根しょうねが大切やねぇ。


「とはいえ、いずれまたエスメラルダを王宮に寄越せだの何だの言ってくるでしょう。やっかいなことです」

フィデリア様のお顔は晴れないままや。

「あのパメラのところに、エスメラルダをやるつもりはありません。作法など、あの品位の欠片もない愚か者が何を教えるというのでしょう」

さすが、フィデリア様。容赦ないお言葉が、格好よくて素敵やわ。阿婆擦あばずれよりも、品位の欠片もない愚か者っていうほうがえぇな。長いけど。


「そもそもパメラは子爵家の人間です。プリニオと結婚する都合で実家は伯爵家になりましたが。パメラが私の孫に何を教えるというのでしょうか」

先王陛下の妹君であらせられるフィデリア様の教えをうけてはるエスメラルダ様に、パメラ王妃が教わることはあっても、教えることなんて、まず無いやろな。


 エスメラルダ様が、遠い御領地からいらっしゃるには安全を考えんといかん。そういうことも、わからんのやろうな。そもそもエスメラルダ様が王都にいはらへんことも、知りはらへんやろうし。まぁ、わざわざ知らせる必要も無いし。他人やねんから。

「また来るでしょうし、どうしたものか。王家と辺境伯爵家が表立って対立するわけにはまいりませんし」


 フィデリア様のお言葉通り、品位のない愚か者の王妃パメラ陛下からは、同じ内容の書状がまた来た。持ってきたのは別の人や。で、また阿呆ぼんペドロ殿下とエスメラルダ様の婚約は解消されとるって聞いて、驚いて帰りはった。


「しつこい女は嫌われるだけやよ」

うちの言葉に、ライは無音で大爆笑しとった。声はせんでもお腹をかかえ肩を震わせとったらわかるわ。

「失礼やね。本当の事を言うただけやのに、何でそんなに笑うの」

うちの文句に、身振り手振りであやまったライの目に涙が滲んどった。何がそこまで面白かったんやろうか。ライが相手を嫌いなのはわかるけど。何でうちが言うたことで、そこまで笑うんよ。失礼なっちゃ。




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