6)王宮からのお使い1
阿呆ぼんペドロ殿下のことを、うちはすっかり忘れとったけど。ちょっかいを出してきはったわ。いらんのに。あ、ちゃう。阿呆ぼんペドロ殿下やないわ。王妃パメラ陛下やった。巷で阿婆擦れ、えっとあかんあかん。お下品や。フィデリア様から教えていただいているうちとしたことが。
「ようやっとこちらが出した書状への返事が届いたのかと思いましたら。この内容ときたら」
フィデリア様の前で、お使いの人が縮こまってはる。
女性としての品位に関して口にするのも憚られるお噂がある王妃パメラ陛下のお使いや。お使いの人も可哀想やな。自分が変な内容のお手紙を持ってきはったのがわかってはるんやろう。神妙なっていうんか、困ったっていうんか、まぁかなり立場が微妙なんやろうなぁということがわかる態度で控えてはった。あれや、返事をもらわんと帰られへんってやつやね。赤の他人のうちからしたら、帰らへんほうがえぇんちゃうって思ってしまうわ。
阿呆ぼんペドロ殿下のご生母である阿婆擦れ王妃パメラ陛下と、フィデリア様とどっちが賢いかって言うたら、片方しかお会いしたこと無いうちでもわかるわ。フィデリア様の御子息は辺境伯イサンドロ様やからねぇ。息子の出来があまりに違うねん。わからん人は、勘が悪い、やなくて、もっと勘が良くなったほうがよろしいお方やね。
フィデリア様は、顰め面になってはった。
「なぜ、パメラがエスメラルダを呼び出す必要があるのかしら。それも、王宮の作法を学ぶためになど。先日、パメラの息子ペドロと私の孫エスメラルダの婚約は、ペドロからの申し出で解消となりましたのに。既に大地母神様の神殿にも報告を申し上げております。パメラは私より若いはずですのに。もう忘れてしまったのかしら。困ったことですわね。可哀想に。まだ若いというのに」
お使いの人が面食らってはった。まぁ、自分がお使えしている人があれや、その、まぁ、色々と忘れるようになってしまったのねと同情されて、驚かん人はおらんやろ。
それにしても、流石はフィデリア様。阿婆擦れ王妃パメラ陛下も阿呆ぼん第三王子ペドロ殿下も敬称なしや。まぁ、付ける必要ないもんねぇ。臣籍降嫁なさったけど、正真正銘王家の血筋のお方やねんから。
「婚約の解消とは」
あ、そこかいな。お使いの人が驚いとったのは。情報遅いねぇこの人。大丈夫かな。こんな人が王宮に務めとって。
「あら、解消いたしましたわ。ペドロからの申し出です。大地母神様の神殿にはお伝えしましたし、甥のプリニオにも書状を送りました。ペドロの父親ですものね。きちんと対応していただかなくては。もちろん王国の貴族にも皇国にも連絡いたしておりますわ。そういえば、甥のプリニオからは、まだ返事がありませんわねぇ。他の皆様は、お返事下さっておりますのに。あら、まさか嫌ですわ。大変ですわね。どうしましょう。プリニオは国王ですし、まだ若いですのに。私の甥ですわよ」
お使いの人、唖然としとるけど。何に唖然としとるんかしら。フィデリア様がご自身より若い王族を敬称なしで呼びはることか、ペドロ殿下とエスメラルダ様の婚約が解消されとることか、国王御夫妻がお若いのに重要なことを忘れてといろいろ心配されとることかしら。お上品に笑うフィデリア様が心配してはるというても形だけやけど。
「婚約を解消なさったとは、耳にしておりませんが」
二度目やけど。この人、本当に大丈夫かな。
「あら、まぁ」
フィデリア様が、大げさに驚いてみせはった。
「重要なことですから、貴族名鑑に名のある貴族には全て書面で知らせておりますわよ。皇国の大地母神様の大神殿には、念のため、使者を複数回送っておりますわ」
余裕の表情で微笑むフィデリア様の眼の前で、真っ青になったお使いの人は、そそくさと帰りはった。ちょっと可哀想やな。あの人。何て報告するんやろう。肝心の返事も聞かずに帰りはったわ。
返事を聞くというお仕事よりも、婚約解消のほうが大事よね。自分の身の振り方考えんといかんねんから。




