5)王宮の噂
女性が集まったら噂話は常やね。王宮の噂を教えてもらってんけど。王宮って髪の毛の色で色々わかれとるんやって。
「あなた黒髪だから。王宮だったら虐められるわよ」
「下働きよ」
「下女あつかいされるかもね」
言い方は違うけど、全部一緒やん。怖いわ。
「王宮って怖いところですね」
うちの言葉に、全員が揃って頷く。
「辺境伯様やご親族のお屋敷はいいわ。髪の毛の色と関係なく、お仕事の頑張りだけを見てくださるもの」
「男なんてもっと露骨に扱いが違うそうよ。私の婚約者、金髪なんだけど、色々と某阿婆擦れに色目使われて気持ち悪いからって、王宮務めを辞めたもの」
うちは色々と驚いた。いくらうちでも、阿婆擦れって口にだしたことは無いで。思ってるけど。多分、声に出したことは無い、無いはずや。無かったよね。多分。
「自分の都合で辞めたの? 次の仕事は? 紹介状もらえないと無理でしょう? 」
うちが聞きたいことを全部まくし立ててくれた人がいた。ありがとう。
「顔よ顔。顔に煤塗って、痣っぽくしたの。そうしたら、上役に君は金髪だが、その顔ではな。他に推薦状を書いてやろうって言われたそうよ。万々歳よ」
「それって」
「私が言うのも何ですけどね。まぁまぁだけど美形なのよ。気持ち悪くない? 幾つよ幾つ」
「うぇーっ」
「最悪」
婚約者の話してくれたんは、うちと年齢近そうな人やから、多分婚約者も似たりよったりの年齢やよね。あれ? 王妃パメラ陛下の息子が、あの阿呆ぼんペドロ殿下やから。ご年齢って。
「エスメラルダ様とのご婚約がなくなったペドロ殿下は、御子息でいらっしゃいますよね」
うち、阿呆ぼんって心の中で呼んでるから、危うく阿呆ぼんってつけるとこやった。危ないわ。
「阿婆擦れのくせに、息子みたいな年齢の男に、色目使うんじゃないわよ。年増が」
むっちゃ怒っとる。怖いな。恐る恐るうちが口にした通りやと、結論が出たけど。ちょっと待って。信じられへんねんけど。
「それって、あの、つまり例えたら大変に失礼ですけど、カンデラリア様が、その」
恐る恐るうちは口にしてみた。失礼すぎてその先を言うていいんか、わからんくなってしまった。
「あ、そうそう。だから、カンデラリア様が、あなたのライに色目使うようなものよ」
まさかの返事にうちはびっくりした。
「違う、うちのライやなんて、そんな」
あわてて皇国語になってしまった。
「あれ、違うの」
「違います」
「えー、つまんない。そんなことないでしょう。ずっと一緒にいるのに」
「だってあれは」
うちはお世話係や。ライは声がでぇへん。でも、このお屋敷でも秘密のことや。ライはただの内気で無口な人ってことになってる。どうしよう。
「ほら、いつまで休憩しているのですか」
普段は叱られるのは嫌やけど。今日だけは助け舟やったわ。




