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3)他人を巻き込んで喧嘩せんといて欲しいわ

 一番面倒くさかったのは、貴族の誰が誰でどれがどれってやつや。ライも代替わりしたりするから、顔とか個人は大まかに覚えとるくらいでえぇと言うとった。それよりも大事なのが、どの一族の領地がどの辺にあるとか、あっちの一族とこっちの一族が隣やとか、親戚やとかやねんて。

『辺境伯様の御領地が、皇国と接しているということは、大切なことだと君も知っているだろう。それが他にも当てはまるということだよ』

言われてみたらそうやね。


 辺境伯様の御領地は確かに皇国と接しとって、その周辺は大抵、辺境伯様のお姉様方が嫁いだり、その前の世代の方がとかで血縁関係があるねん。それを考えると、血縁地縁は大切やね。


 ただ、これ、皇国との境界からかなりの地域が、辺境伯であるイサンドロ様に関係する方々で占められとるんやけど。先王陛下が、妹殿下のフィデリア様を辺境伯様の奥方様にしはったのって、この勢力を王族に近いものにしとこうって思いはったからとちゃうやろか。


『そうだろうね。皇国に寝返ることを防ぐという意味もあったと思う』

ライも別段驚いた様子もなかった。国をまとめるには必要やと考えてはったんやろうね。

『今の王国の(まつりごと)のあり方は、先王陛下の方策への反発なのだろうが。あまり良い傾向ではない』

ライは暗い顔をしとった。皇国に王国が勝てるわけがない。うちは両方の国を見とる。


「親に反抗したいのかもしれんけど、国を巻き込むのはちゃうよね」

うちの言葉にライが頷いた。

『先王陛下は、皇国との関係を密にしつつ、この国を維持しようとされたわけだが』

ライは喋る代わりに石板に文字を書く。うちは慣れたけど。ライは不便やろうな。誰も彼もが字を読み書きできるわけやないんよ。うちは座長が教えてくれたからわかるけど。


 そもそも、何かあった時に叫んで助けを呼ぶことも出来へん。何かあったら叫ぶために、旅芸人で声の大きいうちがずっと一緒におるようにしとるけど。一応は、お屋敷は安心なはずよ。そやけど誰か変な人が忍び込んでくるかも知れへんし。ずっと雇われている人やって、それこそお金積まれたり、脅迫されたりして、裏切るかも知れへんやん。


 うちももし、座長が悪い人に捕まって、こいつの命が惜しかったらって言われたら、無いな。座長のことや。口も八丁手も八丁の座長やもん。勝手に逃げてくるわ。うん。大丈夫や。


「皇国と喧嘩せえへんと、程々に仲良くだけしたらえぇやん。別に無理やり仲良くせんでも。喧嘩せんかったらえぇのに」

子供とちゃうんやから、ちょっとは知恵を働かせぇって思うわ。考えたらわかるやん。土地に住んどる人もおるんよ。


 クレト爺ちゃんも座長も言うとった。戦争になったら大変や。農地が焼かれたり、鶏とか豚とか牛とかの家畜を勝手に連れて行かれて、食料も盗まれて、種籾まで持っていかれたりするんやって。うちらは旅芸人やから、移動したらえぇけど。誰も彼もが逃げられるわけやないねん。それにうちらも、芝居を見てくれる人らがおらんようになったら、旅する先が無くなるわ。


 土地を耕してる人らは動かれへんねんで。その人らが作ってくれたもんを食べてるっていう自覚はあるんかな。

「うちら根無し草の旅芸人にも、旅芸人同士の決まりごとはあるのに。誰彼構わず喧嘩売るような一座は、長続きせぇへんって座長も言うとるのに。うちらより偉いはずの王族やお貴族様が、無駄に喧嘩っ早いってのは、あかんよねぇ」


 うちの言葉にライが頷いた。

『私や兄が生まれる前の因縁があるらしい』

首を傾げたうちに、ライはそれ以上、何も言うてくれんかった。ライとライのお兄さんが生まれる前いうたら、先王陛下と先代の辺境伯様が、皇国との和平のためにいろいろ頑張ってはった頃や。


 王国と皇国の和平の証が、黒真珠の君、故フロレンティナ様の王国へのお嫁入りであり、それに引き続いたカンデラリア様の辺境伯家へのお嫁入りや。


 色々と噂があるのは、うちも聞いたことがあった。


 王妃パメラ陛下を阿婆擦れ王妃と言うとるのは、基本、皇国との宥和政策に賛成しとる人や。他の呼び方も実はある。うちは嫌いやけどな。あの呼び方。節操なしの阿婆擦れを美化して気色悪いわ。


 幼馴染の君や。つまりはそういうことやってんよ。


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