2)認めるのはちょっと悔しいねんけど
座長は賢かってんな。なんや悔しいけど。歴史を教えてもろうてびっくりしたわ。一座の芝居は、王国や皇国の歴史が元になっとってん。びっくりや。
黒真珠の君の芝居が、皇国から王国に嫁がれたフロレンティナ様のお芝居やとは知っとったけど。あれもこれもと一座の芝居は全部歴史の芝居やってん。
「いやはや、よくご存じですな。それにしてもそうですか。芝居とは。確かに芝居であれば、覚えやすいでしょうな」
御髪が真っ白な歴史の先生が、同じく真っ白な長いお髭を指でしごきながら感心してくれはった。座長が褒められて、なんかちょっと嬉しいけど悔しいわ。
「是非一度、芝居を拝見したいものですな」
「まぁ。それは恐れ多いことですわ」
学者先生やで。歴史の専門家や、本物やで。
「歴史を題材としておりましても、芝居ですから史実そのままではありませんし」
本物の歴史のほうが、芝居よりよっぽど血みどろや。人間って怖いわ。歴史のとおりに芝居にしたら、怖すぎや。お客が入ってくれへん気がする。それにうちらは旅芸人やで。立派な歴史の先生が来はっても、どう対応したらえぇかわからへん。他のお客さんと並びの席でえぇんやろうか。フィデリア様は、私達は一緒に旅をした仲間ですよと言うてくれてはったから、ちょっと他の席と囲っただけやったけど。歴史の先生に歴史の芝居、ええんかな。
「まぁまぁ。そうおっしゃらずに。機会がございましたら」
学者先生の言うてはることは、建前なんか、本気なんかわからへん。
「えぇそうですわね。機会がございましたら是非に」
もし、本当に来はったらどうしようと思ったけどま、それは座長が慌てることや。うちは知らんわ。
地理の授業も楽しかった。うちほら、旅芸人やからあちこち行ってるから、沢山見たことあるねん。
「あの山脈に咲く春の花をご覧になったことがあるのですか。それは素晴らしい」
「はい。村の人が見せてくれました」
芝居のお礼やって、山の上の方にある野原に連れて行ってくれてん。綺麗やったわ。
「羨ましい。道が険しくて、土地の民の案内がないと見ることが叶わないあの花を。素晴らしい。是非ご一緒させていただきたかった」
地理の先生が、本気で言うてはるみたいやけど。旅芸人の足腰やからたどり着いたようなもんや。多分、地理の先生はもう少し何というか、あの、お腹がご立派でなくなったら、登れるかもしれへんけど。
「かなり険しい道ですし。花の季節は限られておりますから。なかなか難しいでしょうね」
うちの横でライが引きつっとるけど無視や。大方、うちが地理の先生の立派なお腹を見たのに気付いたんやろうけど。
ダンスの授業は楽しいわ。当たり前やけどライがとっても上手やねん。これ、一座の男連中も練習してもらわんといかんわ。ダンスの先生も、女性を美しく楽しく踊らせるのが男性ですと言うてはったしね。うん。練習してもらお。
計算とかいろいろ大変な勉強もあったけど。概ねなんとかなった。座長とクレト爺ちゃんがいろいろ教えてくれとったのは大きかったわ。ライも教えてくれた。




