3)実物を見るのも役作りには大切や
堂々たるフィデリア様、どっしりとしたイサンドロ様、微笑むカンデラリア様の御三方に対峙する神殿の神官様たちは、青ざめ、強張った顔になってはった。情けな。
何回面会しても、背徳神官様たちは、ライムンド殿下が今どこにおられるか、知らぬ存ぜぬで、往生際が悪かった。芝居の悪役のほうが、反省したりするだけましやな。本物の悪人は性根からして違うわ。褒めとらんよ。反省もできへん根性悪に呆れとるんや。
まぁ、反省できんのも無理ないわ。仮にも、大地母神様の神殿にお仕えする神官様やもんねぇ。人を殺そうとして、悪事を隠そうと嘘をついて。一度嘘をついてしまったら、嘘を隠すための嘘をつくことになる。生きれば生きるほど罪が増えるけど。ちっとも可哀想やないわ。背徳者やからな。
神殿の裏庭にあるあの穴には、まだ死体があるし、神官様はそれを知っとる。
軽業師の双子が、神官様が穴の確認に来たのを見とるねん。双子の置き土産や。
あの二人、昔、あちこちの屋敷に忍び込んで、悪さしとったから、身を隠すのが得意やねんけど。座長に黙って数日おらんくなったと思ったら、神殿の裏庭に隠れとってんよ。座長に危ないことするなって、叱られとったわ。
座長に叱られても、双子はちっとも反省せえへんかった。
「俺たちなりの詫びや」
双子はライムンド殿下に、ちょっと色々意地悪な態度やったのを反省したらしい。ライムンド殿下は、気にしてないというふうに首を振りはった。王族やのに偉そうにしはらへんねん。もうちょっと偉そうにしてもえぇんちゃうかとうちは思うけど。本人はのんびりしたもんや。
「首と袖と首から肩にかけてと、背中のど真ん中に真っ直ぐ縦に刺繍があったで」
神官様は法衣で位がわかるようになっとる。法衣は、白地に白糸で刺繍する超絶技巧の刺繍や。高い位の神官様ほど、法衣に沢山刺繍がしてある。ライムンド殿下が数人の名前を書いて、髪の毛がどうや、髭がどうや、瞳の色がどうやって絞り込んで、おそらくこの人やと一人に絞り込んだ。
双子のお手柄やって雰囲気になってんけどな。
「ちょっとまて、お前ら。なんで瞳の色まで見えたんや」
座長の一言で、双子が怪しい神官様を追っかけて神殿に忍び込んどったのがわかった。
「お前ら、何危ないことをしとんのや! 」
座長は怒髪天やったけど、部屋の場所で、誰ってはっきりわかってんから、お手柄はお手柄や。イサンドロ様とカンデラリア様が座長を宥めてくれはった。
ライムンド殿下が、怒り狂っとる座長と言い訳しとる双子を見とったけど。羨ましそうで、可哀想やった。座長が双子を本気で叱るのは、一座の仲間やと思っとるからや。ライムンド殿下の実のお父ちゃんは、あれやし。
一応はお父ちゃんやのに。国王プリニオ陛下は第二王子ライムンド殿下が神官様になってから、一回も面会に来はらへんかってんて。フィデリア様と、辺境伯様御一家が、会いに来てくれたから大丈夫って、微笑んではったけどな。可哀想すぎるわ。
最初から親がおらんうちのほうが、諦めがつくわ。
双子が見たのは、案の定というかなんというか、あの偽乳女イレーネ様の縁者やった。
捕まえたいのは悪巧みしとる連中の頭や。見つけたのはどうせ尻尾やろうけど。ま、見つけた以上は、尻尾であっても逃すイサンドロ様ではないわ。他に手がかりがないのも事実やし。
第二王子ライムンド殿下がお命を狙われてんで。第一王子シルベストレ殿下の事件と関係あるに決まってるやん。イサンドロ様の御令息アキレス様も巻き込まれた事件や。
せいぜい青い顔して、絞られとったらえぇ。うちは辺境伯爵家の使用人のお仕着せを来て、背徳神官様達を眺めとった。ほら、演技の勉強になるやん。本物の悪人の面やで。そうそう見れるもんちゃうわ。さすがに毎度のどうでもいい言い訳は、さすがに聞き飽きたわ。
「神殿内部での犯罪です。神官たちが神殿の決まり事に基づいて裁くのであれば、私はそれも良いと考えます」
帰りの馬車でのフィデリア様の言葉に、イサンドロ様は首を振った
「どうだか。そのうちに、なにか仕掛けてくるでしょう。反省の欠片もない連中だ」
 




