2)座長も酷いわ
うちは、うちが知らん間に、辺境伯様のお屋敷でライムンド殿下のお世話係になることが決まっとった。
うちは座長に売られたようなもんや。うちは馬車と荷馬車の修理代や。酷いわ。
「コンスタンサ、ライムンドお兄様にはあなたが必要なの。だって、お兄様が何にお困りか、何が出来ないか、一番知っているのはあなたなのよ。ご存命であることも、声が出ないことも、全部秘密にしないといけないから、他の人には頼めないの。お願い。コンスタンサ」
エスメラルダ様にうちは負けた。また何かあったらって思うと、うちも何とかしたらんといかんって思うやん。だって、助けも呼べへんねんで。可哀想や。また何かあったとき、どうなるかって心配になるやん。
「当面身を隠すため、ライとして生きることになるからね。秘密を知る者は少ない方がいい。私達は、政や国境の警備や社交も含め、やらねばならないことが沢山ある。これまでどおり、君が支えてやってくれ」
命の恩人のイサンドロ様にお願いされたら、うちは断られへんし。
「色々と、これから忙しくなりますから」
フィデリア様のお言葉の後には、賠償金の交渉もありますし、鉱山を返してもらいますというお声が聞こえるような気がした。
「私たちは、エスメラルダも守らねばならないのです」
カンデラリア様のお言葉に、うちは、エスメラルダ様が何番目かは知らんけど、王位継承権があるはずやということに気付いた。
先王の王妹殿下であるフィデリア様のお孫様やからね。イサンドロ様もフィデリア様のご子息やから、王位継承権はあるはずや。
何ちゅうか、うちの周りは凄いことになっとるよね。芝居のネタになりそうなことが起こるで。座長も一緒に残ったらよかったのに。何で、うちだけ置いて行ったん。権謀術数は、芝居やからえぇねん。目の前で本当は嫌や。怖いやんか。
うちは修理代やし。大恩ある方々全員からお願いされてしまったし。断るなんて出来へんくて。
結局、うちは旅芸人やけど、フィデリア様の覚えめでたいから、エスメラルダ様のお友達となるために、お屋敷に引き取られたことになった。
ライムンド殿下、やのうて、これからはライになるんやけど。ライはうちと同じ旅芸人で、うちが寂しくないように、一緒に引き取られたという触れ込みや。うちと同じく孤児やねんて。本当のことやないけど、嘘やないから、ちょっと可哀想になる。王族も人の子や。家族は本当はおるはずやん。そやけどな、かなり滅茶苦茶な家族やで。
小さい時にお母ちゃんを亡くしはって、お母ちゃんの喪中にお父ちゃんが後妻と結婚して、すぐに後妻の腹が大きくなって、腹違いの弟が生まれて。そのあとどうやったかは知らんけど。もうすぐ成人やってときに、お兄ちゃんが行方不明で多分殺されとって、自分も危うく殺されかけたんやで。声も潰されて。
まぁまぁ酷い家族や。お父ちゃんも後妻も立場上は親やけど親やないわ。うちみたいな天涯孤独の身の上のほうがましや。少なくともうちは、親に生き埋めにされんかったはずや。赤ん坊が生き埋めにされたら助からんやろうし。会うたこともないうちの両親が、王様と王妃様よりまともで良かったわ。
辺境伯様御一家は、ご自身達が盾になって、一番危ない立場にいるライを守ってはるんや。
うちもうちなりに腹を決めたけど、旅の仲間がおらんのは寂しい。いつのまにか、うちのほうがライと一緒に寝ることで安心するようになっとった。情けないけど。
ライはうちが寂しがっとるのがわかるんか、優しくしてくれた。誰のせいでうちが寂しいねんと思ったけど。イサンドロ様もカンデラリア様もライのお父ちゃんとお母ちゃんやない。うちがおらんかったら、ライはもっと寂しいんちゃうかと思うと、まぁ、うちの置いてけぼりも仕方ないわ。ライは甘えたやし。
座長は許したらへんけどね。




