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4)うちが泣いとる間に

 うちは役者失格や。泣いとる場合やなかった。辺境伯様と御一家に(ゆかり)ある方々の前で、今日は、黒真珠の君の芝居をせんといかんのに。泣きはらした顔では、舞台に立てん。


 辺境伯様の御一家は、さすがは貴族や。ライムンド殿下との再会を、涙を流して喜んではったけど。人前に立てないほどやない。その自制心はさすがや。本物の貴族は、やっぱり本物や。違うわ。辺境伯様御一家へのうちの尊敬はますますつのってもう最大級になったわ。


「まぁ、お前のでっかい息子の家族が見つかったんや。ちっこい母ちゃんが大泣きするのもしゃあないやろ。この部屋におらしてもらったらえぇ」

「ライムンド殿下、神殿におられるはずのあなたが、ここにおられることは内密にすべきでしょう。暫くこの部屋でお過ごしください」

勝手なことを言った座長と、まともな事を言わはったイサンドロ様の言葉を合図に、ライムンド殿下とうちだけが、部屋に残された。


「外には使用人を待機させていますから。何かあったら声をかけなさいな」

フィデリア様がおっしゃって下さった通り、うちがお願いしたら、お屋敷の人はお茶を用意してくれはった。そやけど、すぐに出ていってしまいはった。


 えぇんか。声が出るのはうちだけやで。あぁ、うちはライムンド殿下の声の代わりか。


 ライムンド殿下に促されて、うちはお茶を口にした。

「逆やね」

うちの言葉に、ライムンド殿下が笑って頷いてくれはった。一座で食事をするときは、誰かわからん神官様は、うちが促さんと食べんかった。


 ライムンド殿下が、そっとうちの手に焼き菓子を置いてくれはった。傷だらけだったころは、匙も持てへんかった手や。治ってよかった。大地母神様のおかげや。


 手の傷も治ったし、辺境伯様御一家は歓迎してくれはって、これから暮らすおうちも見つかった。もうお別れやろうと思うと、ちょっと悲しいけど、うちらのような旅芸人相手であってもお優しい辺境伯様御一家なら、声が出ないライムンド殿下であっても安心や。


 うちは、ライムンド殿下が勧めてくれはるままに、焼き菓子を食べてお茶をいただいた。パンを千切ってあげて、スープを一匙ずつ飲ませて上げていた頃を思い出して、あの頃と逆なのが面白くって、二人でくすくす笑った。


 芝居が終わった後は、宴会やったらしい。そやけどライムンド殿下とうちは、二人だけでゆっくり食事をさせてもろうた。ずっと一緒におったけど、もうお別れやから、ゆっくり過ごさせてもろうたのが嬉しかった。


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