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3)ごめんね

 泣きじゃくっていたライムンド殿下が少し落ち着きはった時、何故かやっぱりうちの隣に座りはった。うちの手を握る手は、前とはかわらんけど、王子様やと思うとなんというかなぁ。どうしたらいいか、ようわからへん。


 うちの肩に、ライムンド殿下の頭が乗った。懐いてくれはるのはえぇけど。王族やで。うちがそっと肩を外すと、物凄く悲しそうな顔をしたライムンド殿下に、顔を覗き込まれた。泣いてはったせいか、群青の瞳が潤んどってちょっと綺麗すぎるんやけど。


 懐かれとる。完全に懐かれとる。あかん。


 あんな、うちとは身分が違うねん。うちに懐いている場合とちゃうやん。第一王子シルベストレ殿下が行方不明で、第三王子ペドロ殿下はあの阿呆ぼんや。うちがこの王国の貴族なら、第二王子ライムンド殿下に還俗していただいて、王様にって思うわ。懐いてくれたのは嬉しかったけど。旅の空に生きるうちとは、お別れや。


 ライムンド殿下の口が動いた。けど、声が無い。座長が首を傾げた。そういえばさっき、ライムンド殿下は泣いてはったとき、辺境伯様御一家は、いろいろ言うてはったけど、ライムンド殿下は何か言うてはったやろうか。


「ライムンド。あなた、まさか」

カンデラリア様の方を見たライムンド殿下は、喉に手を当てゆっくりと首を振った。


「声が出ぇへんの」

うちの言葉に、ライムンド殿下が微笑んだままゆっくりと頷いた。

「なんで」

ライムンド殿下は、手に持った何かを飲む仕草をした。

「何かを飲まされたのか」

イサンドロ様の声に、ライムンド殿下は頷いた。ライムンド殿下は、手でゆっくりと、うちの掌に文字を書いた。

『私だと言うことも出来なくなって、おわかりいただけるか不安でした』

読み上げるうちの声が響く。

「ライムンドお兄様はライムンドお兄様よ」

名乗りようもないし、不安やったんやろう。偽者が王族の名前を騙ったら命はないわ。芝居でも落としだねやと嘘こいた人間の末路は悲惨やからな。


 即座に否定したエスメラルダ様に、ラインムンド殿下が嬉しそうに笑った。でも、声はない。


「なんでそんな」

王族や。お母ちゃんが皇国の黒真珠の君やから、皇族でもある。神官様は大地母神様にお仕えする方々やから、それだけでも尊いお立場や。そんな人が、声を潰されて、あんなところに、地下の穴蔵に閉じ込められていはったやなんて。この人は、殺されるところやったんや。それも生き埋めという残酷な方法で。助けを呼ぶことが出来へんように、声を潰されて。


 尊い御方やのに。うちらみたいな流れ者の旅芸人の一座に拾われて、家なしの貧乏暮らしに巻き込まれても、文句一つ言わず、言われへんかったのかもしれんけど、うちらの貧乏暮らしに付きあってくれはった。


 うちの目から涙が溢れた。何も言うてくれはらへんかったのは、声が出えへんかったからや。うちらに気を許してくれてはらへんとか、そういう問題や無かった。懐いてくれとったのに、うちはわかってあげとらんかった。

「ごめんね」

泣いてしまったうちに、ライムンド殿下の口が動いた。何かを言おうとしてくれてはるけれど、声はない。大変な目にあったのは、ライムンド殿下やのに、うちが泣いたらいかんのやけど、涙が止まらん。ごめんね。喋られへんくて大変やったろうに、うちは気付いてあげられへんかった。


 泣きじゃくるうちの背中を、ライムンド殿下は優しく撫でて慰めてくれはった。こんなに優しい人に、誰が何であんな酷いことをしたんやろう。背中を撫でてくれはる大きな手に、手が傷だらけやったときのことや、ゆっくりとしか歩けへんかったころに、うちが手を引いて歩いてあげたこととか思い出して、うちの涙は止まらなくなってしまった。


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