護衛1
私は護衛が華やかな立場だと誤解していた。王都で王弟ライムンド殿下と婚約者であるコンスタンサ殿下にお伝えすると決まった時、華やかな未来への期待に胸を膨らませたものだ。
あの頃の自分は、年甲斐もなく初々しかったとおもう。
経験して早々に、私には辺境伯様の御領地での盗賊狩りのほうが合っていたとわかった。気苦労が並大抵ではない。無論、貴人の警護という重要な任務を命じていただけたことに誇りを感じてはいる。誠心誠意、お役目を果たそうという覚悟に嘘偽りはない。
特に人が多い場での護衛は、些細なことにも気を配らねばならず、気遣いが必要だ。今日のような舞踏会では、敵は暴漢だけではない。
今日も愚かな男が自ら狩られにやってきた。
「ライ。そんなに怒らんとって。ね」
優しく微笑むハビエル皇弟殿下の孫娘、コンスタンサ殿下の視線の先におられるのはライムンド王弟殿下だ。婚約者たちの心温まる光景だ。だが、ただの恋人たちの語らいではない。
王国の貴族たちの中には、ライムンド殿下とコンスタンサ殿下を侮っておられる方々が少なくない。私には、お二人を侮る方々の、根拠のない自惚れがどこから湧いてくるのか、全く理解できない。私たち身近でお使えする護衛は、ライムンド殿下の人となりをよくよく存じ上げている。
ライムンド殿下のお怒りを鎮めることができるのは、コンスタンサ殿下お一人だ。
兄嫁であらせられるエスメラルダ王妃陛下は、幼い頃から怒ったことのないライムンド殿下を怒らせるほうが悪いとおっしゃる。実兄であらせられるシルベストレ国王陛下は、弟のライムンド殿下のことは信頼しているし、伯父のハビエル皇弟陛下のお邪魔をするつもりはないと高みの見物を決め込んでおられる。
可愛い孫娘のためにと、やる気に溢れておられるハビエル皇弟殿下のお邪魔をしたら無粋だと同輩たちが言うが、あれは殺る気だ。命のやり取りではないが、立場は完全に失う。貴族としては終わりだ。
優しく微笑むコンスタンサ殿下はお可愛らしい。あれ程に可愛らしい御方が孫娘となったのだ。溺愛なさるハビエル皇弟殿下のお気持ちは、私ごときであっても察して余りある。正直なことを言えば、ハビエル皇弟殿下のお気持ちを慮ることが出来ない方々がおられるということが信じられない。今日も目の前にいる男が、それなわけだが。
先の舞踏会では愚かにも、ライムンド殿下に決闘を申し込んだ貴族がいた。あの貴族は、ハビエル皇弟殿下の言葉に命拾いをした。
「けったいな奴もおったもんやな。クレトの直弟子に決闘を申し込むんか」
真っ青になって震えていた貴族がどうなったかは、私は知らない。次男が跡継ぎに繰り上がった家があるから、それが答えだろう。
流れ星がいくら流れても夜空の星が尽きることがないように、残念なことに愚か者も尽きることがない。俺は、口から飛び出そうになる愚痴を、なんとか飲み込んで胸の内に納めた。




