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7)辺境伯様の砦

 辺境伯様の砦は、何度見ても圧倒される。岩山を背に、高い城壁に囲まれた町そのものが砦のようや。山と一体となった堅牢な砦が、ここが国境の防衛最前線やということを、思い出させる。


 王国と皇国は長く戦争をしとった。町を囲む城壁は、何度もその役目どおり町を守った。今も戦いの痕跡があちこちに残っとる。


 物々しい城壁の周りにあるのが、先の辺境伯イノセンシオ様と王家から嫁がれたフィデリア様の時代に獲得した平和の結果や。城壁の外に、新しい大きな町が広がっとる。

「この繁栄が、和平の成果やね」

小さく呟いたうちに、ライが頷く。


 戦争がなくなって、王国と皇国の間で人の往来が盛んになり、城壁の外へ外へと新しい町が広がっていっとるねん。城壁の外の新しい町は、最近住み着いた人が多いから、城壁の中に比べて貧しい人が多い。そやけど新しい町には、活気があるんよ。


 王国でも皇国でもない、もっと遠くからきた人も増えとるねんて。皇国の大神殿みたいや。


 ライとうちを歓迎する声があちこちで挙がる。うちら、ハビエルお祖父様に同行させていただいとる立場やねんけど。ハビエルお祖父様が気にしてはらへんけど、申し訳無いわ。


 ハビエル様とライとうちが乗る馬車を警護する騎士様たちが、人の多さに緊張しとる。馬も落ち着きがない。御者がとうとう馬車を停めた。

「危ないんとちがう」

騎士様たちが、馬車が通れるように道をあけろと怒鳴ってはるけど。人はどんどん寄ってくる。

『近すぎる』

「はて、どうしたもんか」

ライとハビエル様が顔を見合わせた。


 角笛の音が聞こえてきた。人の波が割れていく。砦から辺境伯家の騎士様たちが、こちらに向かって道を作りながらやって来はるのが見えた。

「やるのぉ。女傑か女傑の息子か知らんが」

ハビエル様は褒めてはるけど、この言葉、このままお伝えしたらいかんよね。


 馬車の隣に現れたのは、イサンドロ様やった。

「お騒がせしましたな。思っていたよりもお早いお着きで、こちらの不手際で申し訳無い」

イサンドロ様の後ろでは、騎士様たちが人を分けた道が、砦へと向かって伸びとった。

「辺境伯家当主直々にお出迎えとはな。おおきに。久しぶりに叔母上に会うと思ったらな、ちょっと急いてしまったこっちの不手際や。わびてもうてすまんのぉ。孫娘を見せびらかしたいのもあってな」

ハビエルお祖父様が、うちがイサンドロ様に見えるように体をずらしはった。


「これはこれは。可愛らしいお孫さんでいらっしゃいますな」

「そやろ。そやのに、しつこい虫が離れへんでなぁ。さっさと王国へさらって行きよるし、嘆かわしいわ」

ハビエルお祖父様が、ライに向けて顎をしゃくった。


「お元気そうでなによりです」

奔放なハビエルお祖父様を相手に、動じへんイサンドロ様も流石やな。

『ありがとう。直々の出迎え、ご苦労だった』

「お役に立てて光栄です。ライムンド王弟殿下。本当にご無事で何よりでした。皇国より王国へお戻りになられる今日この日を、我々一同心よりお待ち申し上げておりました」


 そうや。ライムンド殿下は、皇国から王国へ、今帰ってきたことになるんや。

「ありがとう。未来の義理の祖父となる伯父と婚約者共々、王国の民に、これほどの歓待をもって迎えてもらえて、私は心より嬉しく思うと、ライムンド殿下のお言葉です」

うちは周囲の人に聞こえるように、ライが石板に書いた言葉を読み上げた。


「もったいないお言葉、ありがとうございます」

イサンドロ辺境伯様は、ライムンド王弟殿下と婚約者の前に跪いた。周囲の人々も、次々と膝を折っていく。


 これが、王族であるということなんや。うちは目の前に広がった光景にふさわしくあるべく、フィデリア様のように気高いほほ笑みを浮かべた。


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