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6)王国の町

 まだ日は沈みきっとらんけど。風が冷たい季節のバルコニーは寒い。ライが、外套でうちを包んでくれた。


 歓声と悲鳴が沸き起こる。ライは笑って広場からこちらを見上げる人々に手を振って、うちにも手を振るように促した。うちも手を降ってバルコニーを後にする。

「ライムンド様! 」

「コンスタンサ様! 」

「おめでとうございます! 」

ライとうちを呼ぶ声が追いかけてくる。部屋に入る直前、ライとうちはもう一度、集まってくれた人たちに手を降った。歓声が沸き起こる。

「お幸せに! 」

嬉しいんやけど、恥ずかしい。ここまで歓迎してもらえるなんて、うち、想像しとらんかった。


「何がどうしてこうなったん」

国境を超えて、辺境伯様の御領地に入った途端、ライとうちは大歓迎された。


 町で一番大きい建物やからって、神殿に泊まらせてもらうことになってんけど。道中も神殿についてからも、町の人の歓声がすごいねんけど。


 ライは余裕の表情や。

『私は生き返ったから』

「王国では生死不明やったライムンド殿下が、無事やったことを喜んでくれはるんはわかるんよ。うちの名前が聞こえるのはなんで」

うちの名前を叫んどる人がおるんよ。この王国の第二王子改め王弟ライムンド殿下の名前を叫ぶ人がおるんはわかるんよ。


 うち、旅芸人やで。皇国でハビエルお祖父様の孫にしていただいたけど。ここ皇国やなくて王国やのに、何でうちの名前を知っとる人がおるん。ライがうちと婚約したことは、王国に正式に使者を送って知らせたけど。町や村にまでは、知らせようもないし。


 ライのしたり顔が目に入った。

「ライ、なにか知ってますって、顔に書いてある」

うちの指摘に、ライが笑って首を振る。

「ライ、心あたりあるでしょう。わかりやすいもん」

『兄上があれだから、私はこのくらいでちょうど良い』

スレイがあれって言われても。うち、未来の義兄やって威張るアスの兄貴風に負けとったスレイしか、思い出されへんで。

「ライ、スレイを言い訳に使わんといて。で、何がどうしてこうなったん。知ってること教えてよ」

『勘だ』

ライは楽しそうに笑って教えてくれへん。ライの意地悪。


「エステバンが、先に出発したやろ」

答えてくれないライの代わりに、満足気なハビエルお祖父様の声がした。

「エステバンの奴、えぇ仕事したな」

ライも頷いとる。

『先に出発しただろう。あの座長のことだ。実は私は生きていたと、王国中に芝居で触れて回っていると思わないか』

うちは、皇宮で婚約式の日に一座が演じた芝居を思い出した。


『皇国に逃げ延びていた私が、大地母神様のお導きで、私を見つけてくれた命の恩人の女性と婚約して王国に帰ってきたんだ。歓迎されると思わないか』

「大地母神様のお導きで、神殿で出会った二人やからなぁ」

男二人が、いつの間にか仲良えんやけど。うち、二人がかりでそんなん言われたら、恥ずかしいやんか。


「これから毎日楽しみやな。皆、儂の孫を見にきてくれるんや」

皇国からの一行やから、ハビエルお祖父様が一番のはずやのに、えぇんかな。


 ライがうちの頬に口づけた。

「こら! ライムンド」

おかんむりになったハビエルお父様にライが笑う。

『私の婚約者です』

要らんことしいやな。ライも。


『明日には辺境伯家の砦です。砦には、王国からの使者もくるはずです』

ライの手には書類がある。


 ハビエルお祖父様の執事がライにあずけていった書類や。皇国の書類を王国の王弟ライムンド殿下にあずけてえぇんかって思うけど。書類仕事を後回しにしたがるハビエルお祖父様に仕事させるのは、ライが一番上手なんよ。


「面倒や。そのために来たんやけど、面倒なもんは面倒や。ま、皇弟殿下らしく仕事させてもらうわ。儂の! 可愛い孫娘のためや」

わざわざ要らんこと言うて本当ほんまに。ハビエルお祖父様もライも気が合うんやろね。


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