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5)王国への旅2

「こうして家族だけでのんびりするのはえぇなぁ」

人払いした部屋で、ハビエルお祖父様は御機嫌や。何のかんのとライを邪険にして、ライにやり返されとるハビエルお祖父様やけど。結局家族の一員にライを含めとるんやから、素直にしはったらえぇのに。


「やっぱりコンスタンサが淹れた茶は旨いな」

ハビエルお祖父様の言葉に、ライも頷く。

「フィデリア様が教えてくれはりましたから」

うち、お世話になっとるフィデリア様に美味しいお茶を飲んでいただきたくて、ちゃんと練習したもんね。


『フィデリア大叔母上のおかげか。大叔母上も喜ばれるだろうね』

「さすが女傑やなぁ」

「褒めていただけるのは嬉しいですけど。ハビエルお祖父様がフィデリア様を女傑や言わはるのは何でですか」

堂々として格好えぇフィデリア様やから、わからんでもないけど。うちは女傑と言うなら皇国の騎士姫カンデラリア様やと思うねん。


うたのは、前が初めてやけどな。先代辺境伯夫人は皇国で有名やで。先代辺境伯が留守の間、砦を守ったわけやからな。ちょっとやそっとの覚悟や出来へんことや。うてみて思ったわ。あの女傑が女王になったほうが、王国は発展したやろな」

ハビエルお祖父様の言うてはるとおりやとは思うけど。王国では女性は王様になられへんはずや。何処かの国は、性別問わずに末子が継ぐって聞いたことあるけど、どこやったっけ。


『フィデリア大叔母上は、先代辺境伯イノセンシオ殿と領地を発展させた功労者ですから』

「王都におって、阿呆な甥に足引っ張られるよりは良かったやろな」

ライとハビエルお祖父様が頷き合う。


 うちは結局、スレイとライの父親やけど父親と思われてないプリニオ陛下には、会わんままになった。どんな人やったんやろうか。


 プリニオ陛下は、愛人に溺れ皇国から嫁がれた妃であるフロレンティナ様の殺害と長男と次男の殺害計画に関わったとして、王族の身分を剥奪されて処刑された。墓もない。


 今までやったら王国の歴史から、全てが抹消される。肖像画の一枚も残らへん。そやけど今回、新国王シルベストレ陛下は、過去の慣例とは異なる決定をしはった。


「愚王として名を残すと決めはったシルベストレ陛下の決定を、どう思いはりますか」

慣例破りや。年長のハビエルお祖父様のお考えをうちは知りたかった。

「シルベストレらしい決定や。天晴あっぱれやと儂は思う。儂がそう言うたと、誰かに言うてもえぇぞ」

ハビエルお祖父様の言葉にうちは安心した。権威も使ってえぇやなんて、大盤振る舞いや。


『兄も私も愚かな過ちを誰かが繰り返さないように、後世への戒めとして愚かな行いを記録に残すことにしました』

「何の役にも立たんかった愚かもんや。こういう阿呆なことはするなという見本くらいは出来るやろ。せいぜい役に立ったらえぇねん」

ハビエルお祖父様も辛辣やな。けど、その通りやとうちも思う。


『コンスタンサ、君と君の仲間の一座の影響だ』

「うちと一座のみんながなんで? 」

突然、一座の話になってうちは首を傾げた。


『書庫で歴史を学びながら、君と色々話をした。君も私も王国と皇国が国境地帯で戦争をしていた時代を経験していない。君が、私の祖父ルシオが先代辺境伯イノセンシオとすすめた皇国との融和策を放棄しようとしていたあの男を、愚かと言えたのは、一座の芝居や巡業先で戦争の歴史を知っていたからだ。私の祖父ルシオの他の政策も君は知っていた。君が生まれる前のことを君が知っているのは学んだからだ』


 群青の瞳のライが優しく微笑む。

『知っていただけではなく、書庫にあった記録からより深く学び、君はより多くの知識を得た。知識は役に立つ。知識を得るのに記録は必要だ』

書庫で、ライと一緒に机を並べてウーゴ様と勉強した日々を思い出した。


『偉業の記録も必要だが、悪行や愚行の記録も必要だ。後世に同じ間違いを侵さないために。あの男の計画通り、兄と私が死んでいたら、王国は今頃存在していない』

ライの言葉にハビエルお祖父様が頷く。

「そや。せいぜいが、そうやなぁ。王国を平定して、イサンドロに治めさせるかやな。カンデラリア叔母上の婿やし、あの女傑の息子や。有能やろ」

ハビエルお祖父様の言うてはるとおりではあるけど。


 皇国との国境周辺は、全部辺境伯様の御血縁や。武力でほかを圧倒してはる。イサンドロ様が、国王陛下になろうと思ったら、皇国の武力を借りんでも、皇国が黙認するだけでえぇはずや。


『イサンドロが国王になる未来もありえると、君は考えていた。違うか』

うちはライの言葉に驚いた。

「うち、誰にも言うとらんのに」

ライは、何でうちが考えとったことがわかったんやろうか。

『当たりか。だから私は君が良い』

さかしらなとか、言わへんライに安心した。

「儂の孫やからな」

ライの満面の笑みと、自慢げなハビエルお祖父様と。うちはちょっと嬉しかった。


『明日、国境を越える』

ライがうちを抱きしめた。

『コンスタンサ、私は君のために、最高の舞台を用意するから。一緒に最高の王弟と王弟妃になろう』

うちもライを抱きしめた。

「うちらはぇことで、歴史に名前を残そうね」

頷いたライの頬が、うちの額に触れた。


 ハビエルお祖父様の咳払いに、ライとうちは抱きしめあったまま笑った。


 うちの家族や。身分も何もかも違うけれど。うちはうちに家族をくださった大地母神様に、感謝のお祈りをした。


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