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4)王国への旅1

 旅芸人の旅と、神官様たちの旅と、皇弟殿下の旅が違うとは想像しとったけど、ここまでちがうとびっくりや。


 六頭立ての四輪馬車は広々としとって、三人乗っても十分広い。荷物の合間に埋もれて座る荷馬車とはもちろん違う。王国から皇国へ、大神官様やった頃のハビエルお祖父様と一緒に乗った馬車は二輪やったから。あの馬車でも十分立派やと思っとったけど。四輪は違うわ。


 上には上があったわ。皇弟殿下という御立場は、凄いわ。うち、まだ神殿の執務室で、秘書官長様にせっつかれとったお姿のほうが印象強いんやけど。


 馬車だけやないよ。ありとあらゆることが、至れり尽くせりで。うち、落ち着き無くなってしまった。

「うち、なにしたらえぇの」

一座の旅では、山程やることあってんよ。移動中でもつくろい物とかしとったし。ハビエルお祖父様と神官様たちとの旅では、うち大神官ハビエル様のお仕事のお手伝いしたし。


『私もそれを知りたい』

ライも皇国に来るときは神官様たちの護衛に紛れとったから、護衛の仕事があって。今回みたいな旅は初めてやねんて。


「意義を正して皇族の威厳を知らしめるのも、兄貴の統治のために重要や」

ハビエルお祖父様はそう言うて、行く先々で有力者のご招待を次々とこなしとる。


 前は大神官様やったから、神殿に泊まってお祈りをしたけれど。


 今は皇弟殿下やから、貴族のお屋敷に順番に泊まる。行く先々で連日歓待の嵐で舞踏会やで。泊める方は絶対に相当お金かけてはると思うねん。面子めんつかかっとるから、節約もできんしな。貴族って大変やな。


 うち、還俗の意味を実感したわ。ライのときは、還俗しても何も変わらんと、フィデリア様のお屋敷におったから、あんまり実感なかってんけど。


 ハビエルお祖父様には皇弟殿下としてのお仕事はあるんよ。今回の旅は皇弟殿下専属の執事団が同行してはる。そもそも皇弟殿下のお仕事について、王国のうちらが知るのはあんまり良いことではないし。うちがお手伝いすることはない。


 ライとうちはご招待に同席させてもらうくらいや。ほら、ライは皇族で王族やから落ち着いとるけど。うち、血筋はさっぱりわからんし。ハビエルお祖父様の孫になったから、手続きだけの皇族やから自信ない。ライに打ち明けたら、えぇこと言うてくれた。


『皇国の騎士姫カンデラリアを演じてくれたら良いよ。皇国の騎士姫は今も人気だ』

ライの言葉でちょっと安心した。カンデラリア様はよう存じ上げとるからね。うち、カンデラリア様なら自信あるねん。もう芝居で皇国の騎士姫様を演じることはないけど。こうして演じるなら、稽古も無駄にならへんから嬉しい。


 時々落ち着かへんときもあるけど。ライが、うちの手をそっと握ってくれるから安心や。傍目には仲睦まじく見えるだけやから問題はないし。実際に仲はぇからね。婚約したから手を繋いどっても、適切な距離やし。


 前が適切な距離やったか不適切やったかは、考えんようにしとる。あの頃は、ライを助けたばっかりで、甘えたなライが、色々あったせいでもっと甘えたになっとってんから。適切ではなかったけど仕方なかってんよ。そやから、えぇの。


 舞踏会のときはね。男女で組になってダンスをするもんやん。ライはもう、なんというか。うちをいてくれてるのはえぇねんけど。王国の王弟が皇国の貴族にうてるんやから、外交せんといかんのやろうに。手ぇ抜くんよ。

「お若いですぁな」

「ほんに、えぇですねぇ。懐かしいこと」

うちを離さんライを、皆様、大人の余裕で許してくれはる。ありがたいわ。


「懐かしいと言うてくれる我が心の君に、もう一度お相手を願ってもえぇかな」

「あらまぁ、嬉しいこと言うてくれはるのね」

そのうちにね、ご招待くださった方々がご夫婦で踊りはって、えぇ雰囲気になるんよ。


 ライがうちを離さへん以上、お接待せんでえぇからやろうね。夫婦仲が良くなるなら、ライの我儘もえぇのかな。まぁ、国同士の正式な晩餐会とは違うし、えぇか。


 ライは色々な人に交渉して、早朝と夕方の護衛の訓練に混ぜてもらっとった。えぇな。うち人前では未来の王弟妃殿下やから、お転婆したらいかんのよ。つまらんって言うたら、ライが室内でちょっと相手してくれるようになった。


「クレトが女の子で唯一の弟子やと言うとったなぁ」

ハビエルお祖父様が懐かしそうに言いはるから、うちも懐かしくなってしまった。


 出てくるお食事は美味しいねんけどね。なんというかハビエルお祖父様は、お料理上手なのは本当やねん。

「皇国に遊びに来てくれたら、儂の手料理ごちそうしたるわ。厨房に儂の調理道具持ち込んであるんや」

「うちお手伝いします」

「えぇな。楽しみや」

ハビエルお祖父様とうちの会話に、ライが首を傾げた。


「儂な、神殿では見習いの頃から厨房におったから料理には自信があるんや。食べさせてやったやろ」

自慢げなハビエルお祖父様に、ライが頷きながらも信じ切っとらん雰囲気や。


「美味しいんよ。ハビエルお祖父様は、一座と一緒に王国から皇国に旅しはったんやけどね。その間、お料理してくれはったの。うちお手伝いして。美味しいのは本当よ。クレト爺ちゃんなんて、ハビエルお祖父様に皇国からのお迎えがきたときに、あぁ飯がって残念がっとったもん」


 本当にクレト爺ちゃんらしかったわぁ。あのとき。

『随分と正直だな』

「クレトらしいやろ」

三人で、一緒に話が出来るのが、なんとなく嬉しかった。



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