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2)皇国の家族

 無駄骨って笑う皇太子殿下は楽しそうやけど、何なんやろう。

「ライムンドは、大地母神様のお導きで出会った命の恩人コンスタンサと婚約しとる。皇国の大神殿で大地母神様に婚約証書を捧げて、大地母神様からの祝福も頂いた」

「コンスタンサは、皇弟である儂の孫娘やし、あの女傑のお墨付きや」

ビクトリアノ陛下とハビエルお祖父様のやり取りに、皇太子殿下も笑いながら頷いてはる。


 ライにはなにか、思い当たることがあったみたいや。突然うちを抱きしめてきた。

「阿呆か。何で儂に見せつけんのや」

「えぇやないか。若いんや。嫉妬せんでも。祖父なんやから」

ハビエルお祖父様とビクトリアノ陛下は、相変わらず仲がえぇけど、教えてくれへん。


「ライ、なぁに」

うちが聞いてもライは、うちを抱きしめたままや。


「今のところは、王国では表向き、ライムンドは生死不明や。生きとるのを知っとる連中はおるけどな。コンスタンサを皇国まで追いかけて来とることまでは知らんはずや」

皇太子殿下は笑顔や。


「おまけに、儂の可愛い孫を、さっさと王国にさらって行きよるし」

ハビエルお祖父様が、仰々しく溜息を吐きはった。

「年寄りが、うるさいな。愚痴愚痴と」

ビクトリアノ陛下の鋭い指摘やけど、それが要らんこと言いやねん。

「年上の兄貴に言われたないわ」

ほら、やっぱり。


 皇太子殿下は、慣れてはるんやろうね。平然としとるわ。

「婚約したことも知っとるわけがない。王国では、ライムンドは唯一の未婚の王族や。ライムンドが生きとると知っとる連中は、取り入ろうと、必死やで。それこそ自分の娘をライムンドの嫁にしようと、慌てとるやろうなぁ」

皇太子殿下がくつくつと笑う。あぁ、悪人面が増えた。まぁでも、皇国を背負っとる皇族やねんから、当然やね。


 ライはライで、うちに頬ずりを始めた。

『コンスタンサがいい。コンスタンサだけでいい』

「ありがとう。うちもライがえぇよ」

甘えたなライが、うち以外に甘えたするのは嫌や。


「そこに、婚約者と一緒に帰ると連絡してみぃ。必死こいとる連中は、慌てふためくやろな。割り込むか、愛人を狙うんか知らんが」

ビクトリアノ陛下もくつくつ笑いだして、皇太子殿下そっくりや。親子って似るんやねぇ。

「大地母神様の祝福を受けた婚約やぞ。不届きな連中や」

ハビエルお祖父様は、ぶつくさ言うてはる。


『私は、コンスタンサを婚約者として王国へ連れて帰ります』

「そりゃ当然や」

『最初から堂々と、婚約者として連れ帰ります。私が命の恩人であり婚約者であるコンスタンサと帰ると連絡して下さい』

ハビエルお祖父様の御一行やからね。ライも勝手は出来へん。


「ま、そやな。文面はこっちで考えるぞ。えぇな」

ハビエルお祖父様が掌に拳を打ち込んだ。ハビエルお祖父様、勇ましいけど、一体全体何しはるつもりなん。


「うちはもともと旅芸人ですから。別に何を言われても」

「今は儂の孫や」

ハビエルお祖父様がうちの言葉を遮った。

「儂の孫や。儂は婚約者に死なれて、神官になった。あれが生きとったら。結婚して子供が生まれて孫が生まれとったらなぁ。ちょうどコンスタンサくらいの年齢や。コンスタンサはあれが遣わせてくれたんかもしれん。儂の孫になれば、ライムンドの嫁になるにも都合がえぇ。大地母神様の御許に還ったあれとフロレンティナが相談して、コンスタンサ、お前を寄越してくれたんかもしれん」


 ライがうちの肩を抱く。

「大地母神様の思し召しや。我々常人が理解できるもんやない。そやけど儂はそう思う。儂は妹のフロレンティナを守れんかった。ライムンド、お前を危うく死なせるところやった。コンスタンサは、あれと妹が遣わせてくれた孫や。絶対に危ない目に合わせたくないし、余計なこと言うやつの口は塞いでおきたいんや」

ハビエルお祖父様がうちを見る目は優しい。言うてはることが怖いけど。


 ライの群青の瞳が、ハビエルお祖父様の群青の瞳を見つめた。

『コンスタンサを危ない目などに会わせません。絶対に許さない。兄も私も、愚か者には用はない』

ライの指が、うちの髪に触れる。

『私に娘を嫁がせようとしているのに、私が婚約者を連れて帰ってきたら面白くはないだろう。だが、私の愛するコンスタンサは皇国皇弟ハビエル殿下の孫娘だ。私の婚約者は、大地母神様のお導きで私と出会い、私を助けた命の恩人だ』


「でも、うち、孤児やから、あれこれ言われるんは仕方ないと思うんよ」

ライの眉間に皺がよった。

『確かにコンスタンサは孤児だが、それは君のせいではない。コンスタンサが孤児であることが、大地母神様のお導きで私を助けたという功績を、減じたりはしない』

「うち、ライがそう言うてくれるだけで嬉しいから、怒らんでえぇよ」


「シルベストレやライムンドのために何もせんかった連中が、貴族やいうだけで威張えばっても、阿呆なだけや。何か役に立っとったんならともかく。醜悪や」

ハビエルお祖父様は相変わらず辛辣やし、皇太子殿下もそれに頷いてはる。


「役に立たんと口だけ立つやつのほうが、うるさいからな。頭も手も暇な奴らや。皇族相手に無礼な連中は、さっさと片付けたらえぇ。阿呆は何するかわからん」

ビクトリアノ陛下が片付けるって言うてはるのが怖いんやけど。皇国の黒真珠フロレンティナ様とスレイとライの身の上になったことを思うと、ビクトリアノ陛下がおっしゃるとおりや。阿呆の仕出かすことは、まともな人間には予測もできん。


 旅芸人でしかないうちは、ライと婚約して王国に行く。いろいろ怖いことはあるけど。うち、こうやってちょっと怖いくらい本気で心配してもらえるのは、幸せなことやと思う。うちは、大地母神様に感謝のお祈りをした。ハビエル様の婚約者様とフロレンティナ様に感謝と魂の安らぎを、お会いしたことはないけれど、ハビエルお祖父様の言葉のせいやろうか、家族のことをお祈りするような気持ちやった。

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