1)旅の支度
皇国から王国へ、ライとうちはどうやって旅するんやろうと思っとってんけど。ライと一緒に王国に来た神官様たちは、もう帰ってしまったから、ライとうちの二人しか、皇国にはおらんのよ。
結局ハビエルお祖父様は、ライに甘いんよね。うちにも優しいし。
「ま、儂と一緒にいくのが安上がりやろ。皇国で生き延びとったんやし。儂が行くのと一緒に、堂々と王国に帰ったらえぇわ」
ハビエルお祖父様の一言で、ライと私は、ハビエルお祖父様率いる皇国から王国への使節団と一緒に旅をすることになった。
「孫娘夫婦と旅したいと、素直に言うたらえぇのになぁ」
ビクトリアノ陛下が呟いてはったのは、一応は内緒や。ハビエルお祖父様にも聞こえたはずやのに、聞こえんふりしてはったし。要らんこと言いのスレイみたいで、本当に、男の人って、大人になってもあんまかわらんのねって思う。どこの国行っても、おばちゃん達は同じこと言うなぁと思っとったけど。結局あれは、どこの国行っても男の人って同じってことやねんよ。
「警備も一緒くたでしてもらえるんやろ。安心やな」
座長はそう言うと、一座のみんなと一緒に先に出発していった。もう、うちは一座のみんなと一緒に旅することはないねん。うちが決めたことやけど、とっても寂しい。お見送りのとき、うちちょっと泣きそうやった。
「お前が拾ったんやから、ちゃんとずっと面倒みたれや。ずっとやで」
クレト爺ちゃんの別れ際の言葉にうち、泣くの我慢しとったのに、泣き笑いになってしまった。クレト爺ちゃんは、お嫁さんとは死に別れてはるから。きっと色々、クレト爺ちゃんの思いがあったと思うねん。
「結局こうなるんやから、あんたも素直にしとったらよかったんよ」
トニアに言われて、うちは王都から離れる馬車でトニアに慰めてもらったことを思い出して恥ずかしくなってしまった。
「同じ舞台に立つことはないけどな。お前も一座の一員や。最高の王弟妃殿下を期待しとるで」
座長の言葉が嬉しかった。
ライはライでなにか言われとったけど。何を言われたかは教えてくれんかった。
身軽な旅芸人の一座は、すぐに旅立つことが出来るけど。皇弟殿下の旅ともなると、そうはいかん。
「一応知らせとくか」
ビクトリアノ陛下は面倒やと、言葉にはしてはらへんけど、隠すつもりが一切ない。皇帝陛下ともなると、存在そのものが豪快やわ。
「眼の前で驚くのを見たいんやけどな」
ハビエルお祖父様からは、つまらんという声が聞こえてきそうや。
「驚く言うてはりますけど。スレイはライがこっちに居ることを、知っとるんやから、驚くも驚かんもないやないですか」
皇太子殿下の言うてはるとおりやと、うちは思うんやね。
「あのこまっしゃくれやないわ。儂の狙いは。数多ひしめく有象無象の日和見連中や」
ハビエルお祖父様は、ついこないだまで世俗の権力とは関係のない大神官様やったはずやねんけど。長年の鬱憤なんかな。随分と辛辣や。
『こちらに引き込んだ者たちは、私の存命を知っていますが』
ライの言う通りや。うち、ライが色んな人に会うてるの見たもん。
「何を言うとる」
「そやないわ」
兄弟って仲えぇねぇ。ビクトリアノ陛下と、ハビエルお祖父様、息もぴったりやわ。
「お前が生きとるのを知った奴らが、今頃何しとるか考えてみぃ」
「大慌てで必死になっとるやろな」
ビクトリアノ皇帝陛下もハビエルお祖父様も悪役面してはっても威厳があるわぁ。こうしてみると王国でフィデリア様相手に、たじろいどった悪徳神官様達は小物やったわ。
首を傾げたライが、うちを見た。
『何だろうか? 』
皇太子殿下もうちを見てはる。皇太子殿下もライも思いつかへんのに。うちがわかるわけないやん。
「わかるって聞かれてもうちには。何やらおべんちゃら考えとるやろうけど。ライに取り入ろうと思って」
ライが露骨に嫌そうな顔をした。
「ライ、その顔は人前でせんほうがえぇよ」
呆れとっても仕方ないし。うちは歪んどるライの口元を引っ張って治した。
「せっかく、黒真珠の君フロレンティナ様によく似た、美人さんに産んでもらったんやから」
ライが照れくさそうに笑った。ライは本当に美人さんやわ。お化粧したら、似合うと思うんやけど。
「あぁ、なるほど、無駄骨っ」
皇太子殿下が笑い出した。
 




