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1)祖父と婚約者1 

 大神官ハビエル様の最後の収穫の式典は盛大に行われた。色々大変やったけど、本当に大変やったけど、大神官ハビエル様のご勇退にふさわしい盛大な祭典やった。


「素晴らしかったね」

式典が終わり夜空に輝く星を眺めながら、うちはライと大神殿のバルコニーの隅っこにおった。バルコニーから見下ろす広場は、さっきまで人で溢れかえっとったけど。式典が終わった今は、人影はまばらになりつつある。


 皇国語と王国語を話せるうちは、ここ数日、各国から勉強に来てはる神官様たちと一緒に裏方で、走り回っとった。うちはクレト爺ちゃんの弟子やから体力には自信あってんけど。結構たいへんやったわ。


 あちこちの国の挨拶だけは覚えたからね。どこかの国からきはった来賓の方々が何を言うてはるかわからんくても、どの神官様やったらわかりそうかくらいの検討はつく。色んな人のお役に立てて、うち、嬉しかった。


『あぁ。良い式典だった』

ライは、うちのおらんところで、あちこちの国の人と何かしとった。何をしとったかは知らんけど、見当くらいはつくわ。王弟殿下やもん。

「ライのご用事も上手くいったみたいやね」

『さすがは未来の我が王弟妃殿下』

そうやった。ライの言葉にうちは、何やら恥ずかしくなってしまった。どうしよう。うち上手く出来るやろうか。


「ところでライは、いつ生き返るん」

ライはまだ、王国では生死不明になっとる。

『あの穴蔵で、私の神官服を着て見つかった遺体が、私と背格好が異なっていてね。私なのか私ではないのかと、問題になっている。殺害計画や実行したという報告もすでに見つかっているから。犯罪は確かに行われて、遺体もあるのに、私は本当に殺されたのかと常に平行線だ』

代わりに葬ってもらえるやろうと、身代わりにした行き倒れの人が、そんな議論を巻き起こしとるとは、うち知らんかった。


「ここで生きとるのにね」

眼の前の現実が、現実だと明らかにしないといかんってのは変な気もするけど。ライの立場からしたら、当然やろうな。


 篝火かがりびの炎が、ライの石板の文字を照らす。

『王国では、私は適宜、兄やアスと入れ替わって、二人が動きやすいようにしていたのだけれど。一段落してそれも必要なくなった。まだ少々混乱しているから、少々強引な説明でもなんとかなる。生き返るなら今だ』


「三人がかりで、フィデリア様にご心配かけとったの」

お兄さん二人組は無事やったから、少々活躍しはっても、よかったんやろうけど。フィデリア様が、さぞかしご心配なさったと思うと。三人が仲良くて元気いっぱいなのは、えぇんか悪いんかさっぱりわからん。


『アスが協力者と内密に会うときに、アスの真似をして兄の隣に立ったりしていただけだ』

言い訳がましいな。

「はいはい」

そういうことにしておいてあげるわ。それだけやないと思うけど、今言うても意味ないし。もう終わったことや。三人とも無事やったし。

『危ないことはしていない』

ふーんと言いたかったけど、うちは我慢した。

「そやね。三人とも無事やったし」

そっとライの頬にふれたら御機嫌がなおった。甘えため。


『皇国とは密に連絡をとっていた。兄のように皇国に逃げ延びていたことにしてはどうかと、ビクトリアノ伯父上からご提案を頂いて、君を呼び出していることも教えられた。だから急いで来た』


 ライの唇がそっとうちの頬に触れた。

『一緒に帰ろう』

「うん」

ライの言葉にうちは頷いたけど。うちが王国に帰るのは、本当ほんまに大変やった。


 うち、収穫祭の翌朝、大神官様ではなくなったハビエル様の孫になる手続きしてんけどね。それは良かったんやけど。


 その直後から、目の前で繰り広げられる光景に、うちは首を傾げることになった。

「あかん。やっと引退したんや! 孫娘と少しくらいゆっくり暮らしてもえぇやろ」

『私は生き返って、王国でコンスタンサと結婚したいのです』

「生き返ってから迎えに来い。ややこしい若造が」

『往復が手間です。時間も費用もかかります』

「王国の金の心配を、なんで儂がするんや」

『甥の国の金です。心配して下さい』

「知らんな」

『ビクトリアノ伯父上からは、皇国で生き延びていたことにしたらよいと、ご提案を頂いています』

「兄貴か。適当に言うけど、王国におったお前が、なんで皇国で生き延びとるんや。適当やな、兄貴は」

何というかあれや。伯父と甥やけど、年齢は離れとるんよね。ハビエル様とフロレンティナ様が親子くらい年の離れた兄と妹やったから。お祖父ちゃんと孫の喧嘩みたいで、なんというか、大人気おとなげなくて。うちが関係する話し合いやから、こういうことを言うたらいかんのやけど。でも、面白い。


「ふん。まずは儂の屋敷に行くぞ。コンスタンサおいで」

「はい」

ハビエル様に無視されとるのに、ライはうちの腕をとった。うちと並んで歩くライに、ハビエル様は何も言いはらへんかった。うちらを見送ってくれはった新しい大神官様や、各国から来はったお客様方とか、神官様たちの肩が震えとった気持ちも、とってもよく分かるわ。


 馬車が着いて、外を見たうちは唖然とした。

「おいで、コンスタンサ」

ライの手をかりて馬車をおりたハビエル様が、うちの手をとった。反対の手はすでにライの手の中や。


「小さな家って、お聞きしとりましたのに」

お屋敷や。辺境伯様の王都のお屋敷よりは小さいけど。家やなくて、立派なお屋敷や。それに、皇宮の敷地内にあるから、これは離宮のはずや。ちゃんと勉強したから、うちわかるもん。


「小さいで。皇宮の半分なんて程遠いわ。三分の一、四分の一もないんちゃうか」

それは、ハビエル様の基準が違うと思うねん。ライが苦笑しとった。


「せっかく大神官を引退したけどなぁ。あの兄貴の弟やってことは引退できんのや。兄貴が儂に仕事を振り分けるつもりや。皇太子も子どもたちに仕事を教える時期や。そうなると皇太子の仕事を誰が手伝ってやらんとならん。当分は暇に出来ん。人が要るんや」


ハビエル様が、ライを見た。

「人が要るんや」

ライがうちの手を引っ張った。

「皇国語と王国語が話せて、他もなんとなくわかるってのは貴重なんや」

ライがさらにうちを自分の側に引き寄せた。


 仲良くしてや。二人とも。本当ほんま大人気おとなげない。


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