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2)ライとうち

 うちはどないしたらえぇんやろうか。


 ハビエル様の執務室に、呼ばれて来たんはえぇけど。


 うちの真正面には満面の笑みを浮かべるライがおるし。部屋の主のハビエル様は、苦虫を噛み潰したような顔でライとうちを見とるし。一体全体、二人は何の話をしたんやろうか。ハビエル様の机の上には、ライが持ってきたらしい書類が広がっとる。ライは一体全体、何を持ってきたんやろうか。


 ライがうちに手紙を差し出した。

『読んで欲しい』

躊躇ためらうううちに、ライが石板に文字を書き足した。

『私が君に伝えたいことが書いてある』

声が出ないライの言葉や。


 うちはゆっくりと手紙を広げた。いつだったか、ハビエル様が見せてくれはった皇国皇帝ビクトリアノ陛下からのお手紙と同じような高級な紙には、ライらしい丁寧な文字が並んでいた。


『コンスタンサ。君の手紙は読んだ。君は、王国のため、私のため身を引くと書いていた。だが、私はそれを望んでいない。私は私の望みを、私の気持ちを君に伝えたい。


 コンスタンサ、私は君と生きていきたい。


 兄は国王となった。だが、兄シルベストレは今も、大叔母上の屋敷で、君にスレイと呼ばれていた頃と変わっていない。人前で国王を演じているだけだ。私は生きていることを公表したあとは、王弟と呼ばれるようになる。だが、私は私だ。私のままだ。君と一緒にフィデリア大叔母上の屋敷で机を並べて学び、ウーゴと書庫で資料を探して、お菓子を食べていた私と同じだ。私は私のままで、何も変わらない。だが、これからは王弟を演じなければならない。芝居の心得もない私だ。たった一人で演じるのは、とても心許こころもとない。


 コンスタンサ、私は君を愛している。どうか、私の隣で私の王弟妃を演じてくれないか。君は生まれを気にしていたが、生まれついての王弟妃などどこにも居ない。生まれついての王族だったフィデリア大叔母上の教育をうけた君が、一番王弟妃にふさわしい。


 コンスタンサ、私と結婚してほしい。私は愛する君に、私の王弟妃となってほしい。君のために最高の舞台を用意すると誓う。王弟を演じる私の隣で、愛するコンスタンサ、君に私の王弟妃を演じて欲しい。私の妃になって欲しい。私は愛する君と共にありたい。コンスタンサ、私は君のために最高の舞台を用意しよう。だからどうか、私の隣で最高の王弟妃を演じて欲しい』

ライの言葉が、紙の上に並んでいた。


 不安げなライの群青の瞳がうちを見つめとった。懐かしい甘えたの群青の瞳は、ライが誰かもわからんかった頃と同じやった。


「うちと結婚しても、何もないよ」

『君がいい。他はどうにでもなるし、どうにかする』

突然自信満々になったライにうちは笑った。甘えたのライのくせに。一人寝が寂しくて、夜中にうちのことを探しにきたライのくせに。夜中、うちの手を握って、おるのを確かめとる甘えたのくせに。


 うちは覚悟を決めた。


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