6) 王国の神官様
秋は実りの季節や。各地で大地母神様に収穫の御礼の祈りを捧げるお祭りが開かれる。皇国の皇都の大神殿での収穫へ感謝を捧げるお祭りが、一番大きなお祭りや。
この収穫祭を最後に、大神官ハビエル様は引退しはる。あちこちの国から沢山の神官様たちが、大神官ハビエル様の最後の収穫祭に参加されるために皇国に来はることになった。
うち、神官様やないし。そもそも神殿の関係者とは違うけど。ちょっとはお手伝いせんといかんやろなと思っとってんよ。そしたらお出迎え係に任命されてしまってん。皇国語と王国語以外は、いくつかの国の簡単な挨拶しか知らんのに。色んな国の言葉の挨拶出来る子って扱いに、いつの間にかなっとった。
「儂が引退したら、孫娘になるんや。顔見世になるし、えぇやろ」
ハビエル様の一言で決まった。
皇国の大神殿には、各国から神官様が来てはるから、その人達が応対したらえぇやんってうちは思ってんけど。
「せっかく皇国の大神殿に、修行に来てはるんですから。お出迎えしはって、大神殿で活躍しとる晴れ姿を見せはったらどうですか」
うちの提案は、却下された。
「私達が出迎えて、私達の言葉で挨拶するんは普通や。私達の国にいるときと同じや」
普通がなんであかんのや。長旅やで。安心するやん。
「大神官様のお孫様が出迎えてくれはって、私達の言葉で挨拶をしてくれはる。それは特別や」
あちこちから来てはる神官様たちが、頷いてはる。
うちがハビエル様の孫になるんは、ハビエル様が引退しはってからやけど。決定事項やから、神官様たちの頭の中ではうちはハビエル様の孫らしい。
「国を離れてようやくたどり着いた皇国の大神殿で、大神官様のお孫様のお口から、私達の言葉を聞くのは特別や」
髪の色も瞳の色も肌の色も、顔立ちもなにもかも、てんでバラバラな、あちこちの国から来はった神官様たちに、大真面目な顔で言われて、うちは奮起した。
大神殿でずっとハビエル様のお手伝いをしとって、何も変わらんから忘れとったけど。うち、ハビエル様の孫になるから。この収穫祭はうちのお祖父ちゃんになってくれはるハビエル様の晴れ舞台や。
親無しの孤児のうちのお祖父ちゃんになってくれはるハビエル様の最後の収穫祭のために、遠路はるばる来はった人たちをうちなりに精一杯お出迎えしようと決めた。
挨拶だけやけど、うちは一生懸命練習した。
「ゆくさおじゃいした」
「よぐ、おいであんしたなす」
「きやんせ」
「ちゅーうがなびら、めんそーれ」
「よく来らったなし」
どうしても発音できへん音とか、いろいろあったけど。うちの挨拶にあちこちの国から来はった人たちが喜んでくれはった。本当は、大地母神様のお恵みが皆様とともにありますようにという挨拶も、色んな国の言葉で覚えたかってんけど、それは難しすぎたわ。
そうこうするうちに、うちが待ちに待った人たちが来る日がきた。王国の神官様たちや。
お出迎えのうちの目に飛び込んできたのは、神官様たちの護衛と同じ格好をしたライやった。
「ようこそおいでくださいました。大地母神様のお恵みが皆様とともにありますように」
びっくりしたけど大丈夫やった。王国語やったら、考えんでも口から出てくるからね。
無事やったのは良いけど。安心したけど。王弟殿下やで。国を離れて一体全体何やってんのと言いたいのを我慢して、うちは王国からの神官様たちをお部屋へご案内した。




