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2)皇宮 

 豪華絢爛。結局うちは色々勉強したけど、この光景を例える言葉を、他に知ることが出来んかった。


 うちはハビエル様と一緒に、謁見を待つ小さな部屋におった。深い青の布を重ねたドレスは、真珠と小さな宝石で縁取られた沢山のフリルで飾られとる。うちが動くと、キラキラと輝く。


 うちの黒髪を、皇宮の女性たちは、絶賛しながら綺麗に結い上げてくれはった。鏡で見せてもらったうちの髪の毛には、沢山の宝石と真珠がついとった。どうしよう。動いて髪が乱れて飾りが落ちたら、うちどうしたらえぇかわからへん。


 どうしよう。緊張する。緊張しすぎて、何に緊張しとるのかも、うちはわからんくなってきた。

「落ち着け。兄貴も人間や」

ハビエル様は悠々としてはる。

「ハビエル様にとっては、お兄様ですけど」

「そや。儂の兄貴や。嬢ちゃん、儂には慣れたやろうが」

「それはそうですけど」


 一座と一緒に旅をして、一緒にお料理して、いろんなお話をした。大神官様としてのお仕事のお手伝いも、うちはさせてもらったけど。


 皇国皇帝ビクトリアノ陛下のお姿なんて、うちは絵でしか拝見したことないで。今、生きとる人の中で一番権力がある御方や。


「ほな行こか」

緊張しとったうちが知らん間に、お出迎えの人が来とった。

「おいで、嬢ちゃん」

ハビエル様の差し出す手にうちは手を添えた。


 ゆっくりとしたハビエル様の歩みに合わせて歩いとると、緊張が少しずつほぐれていく。

「まぁ」


 ライがおった。本物やない。赤ちゃんの頃の小さなライや。

「可愛い」

絵の中で、群青の瞳の可愛らしい赤ちゃんが、美しい女性の膝にちょこんと座って、こっちを不思議そうに見とる。ライとフロレンティナ様や。灰青色の瞳の子供、スレイがフロレンティナ様の膝に手を添えて立って、こっちに笑顔を向けとる。


 思わず足を止めたうちにあわせて、ハビエル様も立ち止まって下さった。


 小さなライは、まだお座りが上手に出来ないんやろう。フロレンティナ様のお手に支えられとる。フロレンティナ様のもう片方の手は、スレイの背中に添えられとる。絵の中に、可愛い二人の息子を愛する母の姿が描かれとった。


『母のことは覚えていない』

「ライムンドは、母の記憶がないはずだ」

寂しそうなライの姿と、弟思いのスレイの声が、うちの中に蘇ってきた。


 幸せそうな母と息子たちの優しい時間が、今も絵の中で息づいていた。失われた幸せは、絵に閉じ込められとった。


「フロレンティナと、シルベストレとライムンドやな。この絵のあと、しばらくしてなぁ」

ハビエル様はそれ以上なにもおっしゃらず、うちと一緒に絵を眺めてくれはった。絵の中ではフロレンティナ様はお元気やけど。フロレンティナ様は、体調を崩して伏せがちになり、ライがまだ小さい頃に亡くなりはった。こんな優しい美しい人が、殺されてしまいはったなんて、本当に悲しい。


「あら」

小さな可愛いライを眺めとったうちは、画家の悪戯に気づいた。小さなライの口元が、光っとる。

「可愛い」

「どうした」

「ここから見ると、ほら、ライの口元が」

「おやおや。儂も気づいとらんかったな」

よだれや。よく見ると、ライを支えるフロレンティナ様のお手には、ハンカチがある。


 絵の中で、ライもスレイもフロレンティナ様に愛されとった。うちはそれが分かって、嬉しかった。絵の中で優しく微笑むフロレンティナ様が、うちにも微笑んでくれてはるように感じた。


 この優しい人のお兄さんなら、怖い人やない。ちょっとうちの緊張もほぐれた。



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