1)神殿
うちらの一座の芝居の台本を書くのは座長や。辺境伯様御一家のことを決めるのはイサンドロ様や。筋書きの両方をまとめてフィデリア様が確認しはって、芝居の台本が決まった。上演は一回こっきり。二度目はない。今日は一発勝負の本番や。一応は稽古したし、ライが用意してくれた図面で位置確認もしたけど、本番の舞台では稽古しとらんから緊張する。
今日が決行の日や。一座は神殿の裏門前に集まった。いつもは王都を出発する前のお祈りのために神殿にお参りするけど。今日は違う。
「さぁ、始めや」
座長の言葉に、うちは足を踏み出した。
早朝やない。もうすぐ日が高くなりきる頃や。本来は、うちら旅芸人が神殿にお参りしてえぇ頃合いやない。そやけど、旅に生きるうちらは、町を出発するときと到着したときだけ、早朝以外のお参りを特別に許されとる。うちらは狙った頃合いに神殿に着くことが出来た。
イサンドロ様と座長が選んだのは、人が一番多い頃合いや。
うちは裏庭のあの場所に立った。足元に茂る草の隙間から、人らしいなにかが見えた。本来、うちらとは関係のない行き倒れや。うちらはライを、第二王子ライムンド殿下を助けた。そやけどこの人は、うちら一座の者が身代わりにして穴蔵のなかに閉じ込めたから、こんなに長く裏庭で、誰にも葬ってもらわれへんままに、過ごさせてしまった。うちらはこの人に、申し訳ないことをした。
うちは大きく息を吸い込んだ。うちは役者や。声の大きさには自信がある。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
うちは思いっきり叫んだ。
「神官様、神官様、どうか、どうかお助けを」
「うわぁぁ、大変だぁ」
うちの声に続いて、一座の仲間が次々と叫び、神殿に向かって走り出す。
「誰か、誰かが埋まって、人が! 助けて!」
「大変です、誰か、誰か、誰か来て下さい! 誰か!」
うちらの声に、裏庭に次々と人が集まってきた。うちは神殿の中でも最も格上の正殿に向かって走った。何とかうちを止めようとする神官様たちを、うちの隣を走る男連中が、体格差だけでふっ飛ばしていく。手は出しとらん。神官様に暴力はいかんからね。
「何事だ」
「騒がしいですこと」
騒ぎを聞きつけたイサンドロ様とフィデリア様が、正殿から出ていらっしゃった。
「あぁ、お貴族様、奥様、大変です。裏庭に、人が埋まっています。どうかどうか、お助けを」
うちは、イサンドロ様に縋り付いた。
「お前は、旅芸人か。汚らわしい。去れ」
イサンドロ様の後ろから、聞こえた声の主は、真っ白な布の全面が白い刺繍で覆われとる法衣を着とった。ライムンド殿下がおっしゃったとおりの法衣や。この人が、この神殿の神官長様、王都にある王国の大地母神神殿で一番偉い人や。
「まぁ。なんと哀れなことでしょう。人が埋まっているなんて。あなた、お嬢さん。私達をそこに案内しなさいな。弔ってやりませんと。ねぇ。神官長様」
フィデリア様の威厳あるお声に、神官長様が苦虫を噛み潰したような顔になった。
この人や。この人が神殿側の黒幕や。
この人は、裏庭に誰がおったかを知っとる。うちは確信した。下準備も兼ねて神殿に忍び込んどった双子の掴んだ情報のとおりや。あとは、フィデリア様、イサンドロ様のお仕事や。
「はい。お貴族様」
うちは久しぶりに被った金髪の鬘を見せつけながら、深々と下げた。
出発前、裏庭の穴蔵に閉じ込められとった人は、この鬘が気に入らんかったらしく、ちょっと面倒くさかった。
うちは思い出した関係ないことを頭から追い出し、失礼ない程度の小走りで、裏庭を目指した。
大騒ぎになっている裏庭に、尊い方々をお連れしたあと、うちはさっさと神殿から抜け出した。旅芸人は、去れと言われたからね。さようなら。




