平凡でありたい中学生
私の名前は橘キラリ。
何処にでもいる中学2年生。
趣味はネットサーフィンとイラスト作成。
極々平凡な日々を過ごしていたつもりなんだけど……。
『幻聴 幻覚 治し方』
検索。
「キラリどうしたくちゃ?」
検索かけると大抵病院に行くように書かれている。
まあそうだよね。
「こんなの医者に言えるわけないじゃん……」
「キラリ悩んでるくちゃか?」
幻覚だなんて中学生の私が言ったところで妄想だとか思われるだろうし厨二病だとか言われるんだ。
「悩みがあるならこのクチャラが話を聞くくちゃ」
「頭痛薬どこだったっけ……」
幻聴に頭が痛くなる。親には片頭痛と言って市販の頭痛薬は取り置いている。
確か机の引き出しに……あったあった。
用法通りに2錠とりだす。
「キラリ最近その薬いっぱい飲むくちゃね」
最近は毎日のように飲むようになった気がする。それもこれも幻覚幻聴が起こるようになったから。
ある日突然謎のくちゃくちゃなんか汚い語尾の生命体が見えるようになってしまって正直病んだ。
最初の方はびっくりして反応しちゃってそのせいで取り憑かれたのか四六時中話しかけられる羽目になった。答えるのも怖くて無視してるけど慣れてくるとただただ鬱陶しい存在になった。
耳鳴りみたいな感じだと思えば。頭痛くてイライラするのには変わりないし。
「飲みすぎはダメくちゃよ」
「頭痛薬最近効き目薄れてきてる気がするんだよね」
頭痛薬に限らず薬を飲み続けていると薬の効果にも耐性が作らしい。
最近本当に飲みまくってたから心配だ。まあ飲んでないと頭痛がしてイライラするんだけどさ。
「今日はもう寝ようかな」
宿題も終わらせたからないし特にするべきこともない。
それになにより寝ればこの幻覚症状から解放される。
素晴らしい。頭痛薬の副作用で眠くなりやすくなってるから頑張ればすぐに寝れる。
「キラリおやすみくちゃ」
朝起きたら治ってないかな。
快眠のために耳栓をして眠りについた。
少女就寝中
「キラリおはようくちゃ」
翌朝。朝から聞きたくない幻聴で気分は最低値に至る。
寝てる途中に耳栓が外れてたらしい。
なんだかんだ1週間近くこんな寝起きだし慣れたっちゃ慣れた。気分が下がるのはもはや強制イベみたいなものだ。
「キラリは今日も学校くちゃ?」
私が朝ごはんを食べにリビングに向かおうとすると幻覚も私の後ろをふよふよと浮いて付いてくる。
この幻覚はこの家だと私にしか見えていない。だから幻覚だって気付いたわけなんだけれども。
そういうわけでママの周りをふよついてる幻覚がうっとおしい。
「キラちゃんおはよう。朝ごはんトースト焼いたから好きなのつけて食べなさい」
「おはようママ」
今日の朝食はキウイレモントースト。レモンの薄切りの上にキウイジャムを乗せた酸っぱいものコンボ。
ジャムはママのお手製。料理が大好きだから食卓がいつも豪華で嬉しい。
私は料理出来ないけど。
「学校遅れないようにね」
「はーい」
バレない様に頭痛薬を服用。
夜飲んだ分は効果切れちゃってるし。
バレなきゃセーフ。
「行ってきます」
鞄に勝手に入ってきた幻覚は鞄をひっくり返して対応して学校に向かう。
家を出ると見慣れたピンクがこっちに走ってくる。
「おはよう!キラちゃん」
この子は宇井朝日ちゃん。幼馴染で毎朝一緒に登校している。
どうやら私と同じ幻覚が見えているようでその現実を受け入れられず廚二病に走った自称魔法少女。
純日本人のはずなのに髪の毛がピンク。お前が主人公だぞよかったなピンク。
キラリという名前を否定するような黒髪の私とは全然違う。
「キラリちゃんおはようきゅう」
「おはようくちゃ」
「クチャラちゃんもおはよう」
朝日ちゃんの鞄から飛び出す白い幻覚。きゅうきゅう言う。くちゃくちゃよりはマシなんだろうな。
頭痛の種であることに変わりはないけれど。
「キラちゃんも一緒に魔法少女やろうよー」
事あるごとにこの魔法少女ピンクは私を厨二病の仲間にしようとしてくる。
何と戦っているかというとタイダロスとかいう人を怠けさせる集団らしい。
朝日ちゃんは魔法少女ピンクとなって悪の敵と戦うのだ。
という設定。
「……はぁ」
「溜息したぁ!妄想じゃないもん!キラちゃんもキュウちゃんとかクチャラちゃんが見えてるんでしょ!」
「…………知らない」
可哀そうに妄想につかり過ぎて空想と現実の区別がついてないのね。
「なんか可哀そうなものを見る目で見られてる気がする!」
「朝日ちゃんは可哀そうな子ね」
「ほんとに可哀そうな子を見る目しないでよー」
キラちゃんも魔法少女やればいいのにー。
巻き込まないで。
数年後には黒歴史になることも知らないで……可哀そうな子。
そっとしといてあげよう。
言動がおかしくなったら他人の振りとかして。
「なんか馬鹿にされてる気がする!」
「そんなことないよー朝日ちゃんは正義の魔法少女だもんねー(棒読み)」
「えへへ……かっこいい?」
「かっこいいーよ」
「そっかぁ」
朝日ちゃんがバ……単じゅ……純粋でよかった。
私の言葉にすっかり上機嫌な朝日ちゃん。
純粋だからこそ魔法少女なんてピュアな妄想が出来るのかな。
「朝日ちゃん!タイダロスが出たきゅう!早く止めないと町が大変なことになるきゅう!」
「大変!早く止めないと!」
突如朝日ちゃんの幻覚が喚きだし朝日ちゃんは学校とは反対側の方へ走ろうとする。
「キラリ!キラリも行くくちゃ!」
「キラちゃんも来てくれるの⁉」
「行かない。遅刻しちゃうよ」
妄想よりも学業優先。当たり前だよね。
「仕方ないから変身してく!そうすればすぐ着くから!『変身』」
朝日ちゃんは何やら玩具の杖の様なものを鞄から取り出すとあっという間にメルヘンチックな衣装に着替えた。髪型もいつものポニーテールから変わっている。なんかめっちゃ伸びた?靴もスニーカーからヒールになってるし。
いつも持ち歩いてるのかなそれ。
今度朝日ちゃんの鞄の中漁ってみようかな。
「じゃあキラちゃん!行ってくるね!」
「ワ―イッテラッシャーイ……」
あっという間に魔法少女ピンクが視界から消える。
凄い風が辺りを吹き抜ける。ヒール履いて走る速度じゃなかったけど。
「私は何も見てない。私は何も見てない……よし」
朝日ちゃんってあんなに足が速かったんだー。
がんばえー魔法少女ピンク朝日ちゃん。
タイダロス?とかやっつけちゃえー。
「キラリも魔法少女になれるのに何でならないくちゃ?」
コイツも連れてってくれたら完璧だったのに。私も幻覚から救ってくれ。
「……魔法なんてあるわけないのに」
ずきりと痛んだ頭を軽く押さえ変身?したとき置きっぱなしにされていた朝日ちゃんの鞄を持ち学校に向かう。
幻覚が持ってる朝日ちゃんの玩具の杖の様なものから全力で目を背けながら。
あ、おいこら勝手に鞄の中に入れようとするな!
私が魔法少女やるわけないだろ!
この後頭痛の種が増えることを私はまだ知らなかった。