あなたへのファンレター
私が、あなたとあなたのつくった歌のことを知ったのは偶然でした。
でも偶然でないことなんて、ほんの僅かしかないから、ありきたりな出会いかもしれません。
あなたがうたう歌は、空までのびていく祈りのようで、重なりあう手のひらのようで、私はあなたの歌の中で何度も透明な眠りにつきました。あなたの歌を聞いている時だけは、その空間があなただけでいっぱいになり、私はそこで透明でいられるのです。私にとって、それはある種の救いでした。
あなたが、あなたの歌を誰のためにうたっていたのか私には知る由もありません。目の前の聴衆や、あなたの愛する人たちのためかもしれないし、あなたが救いを求めた存在に歌っていたのかもしれない。もしくは、あなた自身のために。
少なくとも私のためでないことは確かですが、あなたの歌を聞いて勝手に救われたことが、あなたの預り知らぬほんの『ついで』だとしても、こんなに嬉しい『ついで』はないでしょう。
私が生まれるよりも前に、あなたは若くして亡くなりました。『不遇の』という言葉が、あなたについて語られたものに付いて回るのを見て、私はあなたのことを考えます。私には知り得ない、あなたの幸せや不幸を。
歌は時にひとの心の拠り所として、灯火のようにそばにあります。ひとりであっても寄り添ってくれる歌があることは、喜びに違いありません。
取りこぼれていくものを、あなたのメロディが拾い上げるのを私は何度感じたことでしょう。あなたの生きてきた世界で、今もあなたの歌は流れつづけています。
うつくしい歌をありがとう。あなたは素晴らしい。
あなたの歌を聞きつづけることが、私が唯一あなたにおくることができる、たくさんの拍手です。