最悪のスタート
『何気ない普通の日常が1番』
誰が言ったか、俺たちはこの普通に感謝して生きていかなければならない。それを実感したのは、まあ、この目の前の光景を目にしてしまったからだった。
「起きたかい?おはよう、光くん。いい朝だね」
「………」
まず先に言っておくが俺は昨夜、誰かと同衾した覚えはない。寝相が良い、とは言えないかもしれないが少なくとも通りがかった人間をベッドに引きこむ様なイカれた習性は無いはず。
「何故ここにいる、なぎさ」
それになりより俺は目の前のコイツ、【深月なぎさ】を家に入れた覚えは無い。
「おや、早速下の名前で呼んでくれたね。嬉しいなぁ」
「質問に答えろ」
本当に嬉しそうに微笑むがコイツは油断ならない相手だ。いつ何をするか分かったもんじゃない。
「む、別にいいじゃ無いか。彼女が彼氏のベッドに忍び込むことがそんなに変かい?」
そう、俺はこの面倒臭い女と訳あって交際をしている。
「はぁ……」
溜息をつきながら起き上がる。朝イチから妙なものを見てしまい、少々嫌な気分だ。
「布団はボクが畳んでおくから、先に降りててよ」
「ああ」
一見すると彼氏に献身的な良い彼女なのだろうが、それはコイツの表面に過ぎない。それも薄皮一枚だ。
深月なぎさ。その本質は衝動のまま、対象を痛めつけ、殺すという行為に快楽を得る異常者。
そんな彼女は自身のことを"欠陥品"と称している。
過去に何人殺してきたか分からないが、俺がコイツを繋ぎ止めている間、被害者は殺されても死なないという同じく欠陥品である俺だけで済む。
そう、この関係は互いの利害が一致しただけの空虚な縁。そこに互いへの愛は無い………筈だ、多分。
「待っててくれたのかい?先に行っててくれてよかったのに。でも、嬉しいよ」
「………ふん、そうかよ」
しかし、なんだかんだなぎさを拒めない俺がいるのも事実。この歪んだ関係が何処へ辿り着くのか、それはまだ、俺たちはまだ知らない。