生贄という鎖
深月の腕を掴んだまま、出来るだけ遠くへ。走って走って走り続ける。
コイツをまき姉に近づけるわけにはいかない。
「ねぇ、ちょっと、どこに行くんだい……?」
住宅街を突き抜けたところで手を離し、深月の顔を見据える。急に走り出したせいでお互い息が上がっている。
「もう……急にどうしたのさ……?」
「………」
荒い息、乱れた髪。そして、赤らんだ頬。
こんな状況でなければ、そして以前のコイツのことを全く知らない俺だったらさぞときめいただろうなとつくづく思う。
今は全くそんな事は無いというと嘘になるが。
恐怖と緊張、興奮、そして何より全力疾走による疲労で心臓が煩い。
「そんな顔されるとまた殺したくなっちゃうんだけれど」
「今は黙ってくれ」
「おや」
ゆっくりと息を整えながらも、奴から目を離さない。
そう、コイツは殺人鬼。人を殺さずには居られない異常者だ。異常者に一般的な常識は通用しない。
最後に大きく一息つく。
「深月」
「何かな?そんな真剣そうな顔をして」
ならばやはり、不本意だが。
「答えが出た」
「………」
コイツの条件を飲む事で。俺を生贄にする事で
「俺と付き合ってほしい」
コイツを縛り付ける他ない。
「ありがとう、嬉しいよ。勿論答えはYESさ」
「………」
深月は嬉しそうに微笑むと、俺に近づき、顔を寄せる。そして
「これから宜しくね」
「っ」
ボクの愛しい彼氏くん
そう耳元で囁いた。