突然の死
放課後、一緒に帰ろうという幼馴染の誘いを断り、街中でぶらぶらしている時だ。
目に移ったコミック本に懐かしさを感じ、立ち読みしているとなにやら言い争うような男女の声が。
「離してください……」
「う、うるせぇ……とっとと来い!」
見れば今まさに男が女子高生を路地裏へと連れ込もうとしている最中だった。
「………はぁ」
目の前で起こった事を見て見ぬ振りして帰るのは流石に後味が悪い。なにより女子高生の方は同じクラスメイトだから尚更だ。
別に正義感とかじゃ無い、ただそう思った。
すでに2人の姿は無くなってしまったが向かった先は分かる。彼女は抵抗していたし、たいした遠くには行っていない。走れば追いつける筈だ。
ちょっと名残惜しいがコミック本を置いて鞄を肩にかけ、走り出す。こういう時って蹴ったり殴ったりして大丈夫なのだろうか。
生まれてこのかた喧嘩なんかしてこなかったが、見た感じ相手は運動できるような体型ではなかった。殴り合いになったら負けないだろうが、とか考えていると2人の姿が見えた。
しかし、何かがおかしい。
男が怯え、彼女の方が覆いかぶさっている。その右手には鋭利なナイフが。
「や、やめ……」
「さようなら」
振り下ろされるナイフ。それを咄嗟に止める。
「っ、誰」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
「あ、待ちなさい!………チッ」
殺す気だった。止めなければ、確実に。それに彼女の殺意はまだ収まっていない。
「君、やってくれたね」
「お、おい待て……何をするつもりだ」
「何をって」
ズブリ
「こうするつもりよ」
抵抗する間も無くナイフは腹部に突き刺される。
「あ、ああ………」
一歩、二歩、後退りし、崩れ落ちる。力が入らない。刺された箇所からはドクドクと生暖かいものが絶え間なく流れ出る。
「か、かひゅ……」
熱い、痛い、熱い。あまりの苦痛に声すら出てこない。
「…………さようなら」
小学校の入学式で親と撮った写真、中学校での修学旅行、数々の思い出が走馬灯のように浮かんでは消えていく。
そんな混濁した記憶の海に、ゆっくりと沈むように意識は途絶えた。