明けない夜
「消えたい…」
ぽつりと呟いた言葉は秋の静けさに溶けて消えていった。
「もう…こんな世界…」
自分がこの世に生きてきて何かいいことでもあっただろうか。
そう考えて少女は自嘲した。
あるわけない。
答えなんてそれだけだ。
決まり切ったことを考えるなんて今日は流石の自分も参ってしまっているらしい。
「あはは…」
つまらない。それはつまらない人生だった。
両親から愛されることはなく、心から信じられる人もおらず、ただ貼り付けた笑みだけが心に傷をつけて己を殺していくだけ。
夏場でも表に出せなくなった腕も、無意味だった流した涙も、何もかもが自分をこの世から抹消させようとしているかのように思える。
(さようなら)
もし、もしも、次会えるなら…。
私はきっとーー
▽▽▽▽
「……っっっ!!」
どうしようもない息苦しさに、眠っていた身体が飛び上がる。
反射的に退けた掛け布団が滑らかにベッドの下へ落ちていく。
「はぁ、はぁ……ッ」
バクバクと強く鳴る心臓をグッと掴んで、荒ぶる息をなんとか整えようとする。
(くっそ…!)
思い出した。全て、そう全てを思い出した。
自分が日本という異世界に住んでいて、その世界で高校生まで生きていたことも。
その世界での自分の経験も、何もかもを。
(言ったじゃねーか。私はもう生きていたくないんだって…。もしも生まれ変わるなんてことになったら、私は絶対この世界を…)
見えるはずもないのに、少女は思わず空を睨んだ。
桃色の髪が純白のネグリジェに散らばり、鋭く細められた赤と紫のオッドアイの瞳は憤怒で彩られていた。
アリシェリア=ノッドメナ。五歳。
前世の記憶を思い出した。