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合間の話

 1週間の内、7分の4が許婚と一緒の学外生活が決まってしまったけれど、1日はクラブ活動で安全が決まっていたし、残り2日も安全な習い事にしよう!

 焦ってもしょうがないから、いっそ色んな習い事を経験してみるのもいいかもしれない。



 決意も新たにしたが、学園に入学して気がつけば数ヶ月経とうとしていた。


 いくつも候補をだすけれど、許婚と出会ってしまうのでキャンセルを繰り返している。

 バイオリン、チェス盤を愛する会、かつら投げ紳士淑女の会から宝石鑑定会、星を愛する天文学まで色々とやってみた。手広くやってみればやってみるほどに、許婚の努力を目の当たりにしていた。

 まだ決まっていない。

 大丈夫だ。きっと断罪イベントを回避できるような習い事までたどり着ける、はず。




 国立学園では木曜日は元々、講義が半日しかない日。

 学園を盛り上げるクラブ活動に力を入れるべくそう決まっている。私が入ったクラブは隠密行動が磨けて、観察眼を上げることができるクラブだ。地味でマイナーなものだが、部員同士で仲良くやっている。


 穏やかな木曜日の放課後は最高です!!

 ここで磨いた技術で、許婚が学園内で話しかけてこようとしたときやイベントとぶつかりそうなときは回避行動ができていると言っても過言ではない。



 学園内では許婚や攻略対象、ヒロインとも無事に関わりがない。


 それだけを救いに色んな学科の講義を選んで視野を広げつつ友人知人作りに励んでいる。

 お茶会や夜会に誘われても習い事を理由に断っていて心苦しかったけれど、理解ある人が多く、同情と称賛をもらった。

 代わりに長期休みには何かしら友人たちの領地へ遊びに行くことが決まって、長期休みの習い事計画予定が消えてしまったけれど、更に仲良くなれるチャンスだし、視察の勉強と思えば嬉しい誤算だ。ゲーム内のような悪目立ちをすることもなく日々が過ぎていく。



 そしてー

 ついに一つ目の努力が実る日が来た。

 半日しか講義がない木曜日のランチの時間に、華やかなランチタイムという上級生の女子たちとも交流の取れるランチ会の招待をもらった。


 一見様はどんなに位が高くても入ることができない。

 友人が友人を呼んで初めて参加できる女子限定、花園での木曜日のランチ会。


 美しく華やかと名高いが、実は学園の極秘情報交換会だ。


 貴族子女の隠れた社交場。

 交流を怠ったものは手に入れることのできない情報が飛び交う隠された学びの時間。



「木曜日は祝福された日かもしれないわ」


 友人たちと晴れやかな気持ちで参加して情報収集に勤しむ。ようやく断罪イベント回避の糸口が手に入るかもしれない。


「お持ち帰りもできますわ。後で希望者は従者づてに連絡くださいな。」


 司会から嬉しい申し出があった。対価は勿論、情報です。

 私も色んな習い事から手に入れた情報を使う。


 かつら愛用の貴族リストと出回っていない蔵出しワインの発売予定日リストはかなり好評をもらった。

 こんな形で習い事が役に立つとはなー。複雑…。



 色々な話が飛ぶ中で特に目立った情報は、かなりの数の令息がとある特待生の女生徒の周りに侍っている話。


 私だけでなく、何人もの少女が前のめりになったのを確認した主催の公爵令嬢様が合図をだした。


「本日のメインディッシュですの。味わってくださいな。」


 上級生たちから複数の用紙が写真付きで回ってくる。

 学園には腕の良い写真家の女生徒が複数いるらしい。良いアングルで、全部証拠写真に使える品だった。

 回ってくる情報の中には許婚の名前も時々でてきて、素知らぬふりをすることが辛かった。


 回し読みのために速読になったけど、たった数か月なのにヒロインはかなり色んな人の恨みを買っていることがわかった。

 彼女の生家から養女に入った経緯、現在の階級や家族構成、希望進路から通学路の移動時間と手段に、見えない位置のほくろの情報までそれこそ全て載っている個人情報も回し読みされていた。


 私を含む初参加の令嬢たちも青くなっていく。

 これはゲーム攻略本も真っ青だ!


 あれぇ、ゲーム内とすでに全然違うんじゃないかなー?

 糸口どころかこの情報一覧ですでにヒロインを破滅できる気がするなぁ!?

 もうヒロインの方が断罪イベントに向かっているような…?


 予想以上にどす黒い情報内容に何も言えずにお口を閉じて、友人に聞いていた通りに合図を待ってランチ会の作法にのった。

 手中に個人情報が回ったところで全員の今後の答え方を統一させられる。


 全部知っているけど、何も知らなかった。

 何が起きても何も見なかった。

 そこから誰がどう動くかすらも、全員が口を合わせて『知らなかった』。


 ランチ会に呼んでくれた友人いわく、これは()()()()()()現状を様子見する約束らしい。



 衝撃から抜けずに一通り内政的な話も聞いて、気づけばランチ会は終わっていた。全員友人たちに挨拶しつつ、花園から散っていく。自分も張り付けた笑顔のままお礼を言いつつその場を離れる。


 この世界はゲーム内と同じ世界だけど、ゲームじゃない。忘れていたけれど、もっと真っ暗な貴族社会に自分が生きていることを自覚させられた。

 …淑女こっわ!

 断罪イベントなんて大したことない気がしてきた。





 心の安寧を求めてクラブ活動に向かう。


「華やか女子会に参加できて良かったわ…交流頑張って良かった。…。」


 浮かれたフリをしても、現実からは逃げられない。タールもびっくりな真っ黒女子会でイベント回避情報が手に入ったことを手放しで喜んでいいのかわからなくなった…。貴族子女怖い!…距離をとろうかしら?だめだ、私も貴族子女だった!



 ゲームと唯一接点のない時間。早く部員たちと談笑したい。

 安全な木曜日のクラブ活動に参加するべく速足で部室に向かう。

 木曜日の放課後は安全だから!

 木曜日は祝福された日だから!

 これで人脈作りは成功したといえるだけのこと。何も問題なんかない。


 早く、早くクラブ活動にいきたい。

 





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