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学園内の謎解き・後編

 翌日に森に向かうと人の出入りが頻繁にあって、あまり何か秘密の悪事をするには向いてるとは思えなかった。薄暗い森だけど学園近くは手入れされて、あまりそれらしい痕跡はない。

 もっと奥に調査に向かう途中、活動中の野鳥観察クラブの友人にあった。それとなく不審人物について聞いてみても首を振られる。


「森になにかあるの?仕事中なら、この先にある崖下の巣作り観察に誘わない方がいいよね。そういえばエリオット君、隣の女生徒さんは―」

「謎ときをしている!巻き戻された卵たちの住まう場所と聞いて何かわからないか!?」


 でかい声でローガンが暗号の一部叫んだ。ヴィントと2人で飛び掛かって口をふさいだけれど、鳥が何羽も飛び去って数人がこちらをみているから遅かった。


「遊んでるの!友人がローガンの、えっと、大事なものを隠してしまってね。第二王子様から手伝ってあげるように命令を受けているの!」


 下手な言い訳をこぼすヴィントの声が変声に失敗しておかまになっている。散々な状況に冷や汗をかいた。ついつい戦犯の口を塞ぐ手に力がこもってしまう。


「ちょっと話がよくわからないのだけど、その謎なら鳥じゃない気がするな。この森の鳥たちは番以外とは一緒にいないよ。その言い方だと卵の集団が住まう場所ってことじゃない?魚みたいな群れをつくる生き物の方が当てはまるから、魚たちの住まう場所…学園の池の中とか…?」


繋がった。


 お礼を言って急いでその場から離れる。去り際に「君の隣にいたハスキーボイスの綺麗な女の子と何でもいいから接点を作ってくれないか。」とこっそりお願いされたから「中身がアレな人だから諦めて!」と本人のためにも即座に断った。残念そうな友人に見送られて森の奥にまできた。ハスキーボイス美女ヴィントが楽しそうに聞いてくる。


「去り際に何を文句言われてたんだ?」

「君に一目ぼれだってさ、代わりに断っておいたから安心して。それよりローガン!君何を考えているんだい?あれだけ謎について言うなと言い含めたよね僕。ダメって言ったことをどうしてするんだい!?」


 怒った口調でせめると、落ち込んだ巨体から小さな謝罪が返ってくる。


「すまん、グリフィスに浮気の疑惑がかけられたと思った。誤魔化そうしたら他に思いつかなかった。本当にすまん」

「じゃあ、しょうがないね。ありがとう!クラリベルに変に伝わらずにすんだよ」

「掌返しが早い!」


 ツッコミを入れるヴィントに笑顔のまま視線を向ければ静かになる。先ほどの友人はクラリベルと共通の友人だ。もし変な誤解を生んでいたら洒落にならなかった。


「場所もわかったし、戻ろうか…。確かこの先は崖になるってきいたから気を付けないと…」


 そう言った瞬間、ローガンが僕を掴んで後ろに跳んだ。元いたところに矢が刺さっている。てらてらと黒緑に光る矢じりは、どうみても毒が塗ってあった。


「走れ!」


 引きずるようにローガンが僕を掴んだまま更に森の奥に走った。ヴィントもすぐさまついてくる。学園も近く、人が多いこの森で攻撃をしかけてくる阿保がいる。音でばれるからか、銃は打ってこない。いくつも矢が僕ら目掛けて飛んできた。引きずられながら待機していた影武者に部下たちを呼ぶように連絡した。少し持てば何とかできるはずだ。


ギリギリ崖の手前でローガンが止まった。


「何か手はないか!」


 そこら辺に落ちてた木の棒を拾ってかまえるヴィントと、腰の剣を抜いたローガンが僕を背後に押しやる。彼らの隙間から、武器を持った男たちが十人ほどこちらに向かってくるのが見えた。迎え撃つには数が多い、改良中の魔武器じゃまた爆発した時に脆い崖上だから結局は落ちてしまう。もう援軍を待つより逃げた方が確実に助かるだろう。


「試作品だけど、ちょっとだけ飛べる道具があるよ!少し時間を作ってくれ!」


 この崖から飛ぶなら、落ちるようにゆっくり飛んで崖下に着地する方法が確実だ。急いで魔力をこめて起動させるけれど、使うつもりが無かったから時間がかかる。その間にも男たちがこちらに詰めてきた。


「飛べるんだな!よしいくぞ!」


 脳筋は脳筋だった…。僕らを脇に担いで、勝手に崖から飛び降りる。


「時間作れって言っただろ!このばか野郎―!!」

「ぎゃー!俺まだ死にたくなーいー!!」


 視界の隅で出来立ての鳥の巣が過ぎていく。



 崖中腹まで落ちた辺りでギリギリ発動できて3人浮かんだ。

 本来より多くの魔力をこめてしまった装置がぶるぶると手の中で震えている。ホッと息を抜いて、浮遊装置を抱え直した。


「どうした!?ゆっくりになったが、まだ落ちているぞ!」


 偉そうに聞いてくるローガンに飛べる道具としか伝えていないことに気が付いた。安心から魔が差して仕返しの冗談を思いつく。


「わかっている!心配はいらない、()()()()()()なら支えられるから僕を離してくれ!」


 ローガンから甲高く短い悲鳴が聞こえた後、僕を担いでいた右脇にがっちり力がこもる。ついでに涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになったヴィントが、左脇に担がれたままこちらに手を伸ばしてくるのが見えた。


「これも運命!共に落ちるぞー!」

「死ぬときは一緒だよー!!」

「悪かった、冗談だよ!3人で生きて崖下まで降りられるから絞めるのをやめろ!!しがみついてくるなー!!」


 空中でもめていると上から矢が降ってきた。何とか浮遊装置をコントロールしながら、矢の追撃を避ける。自業自得とは言え、パニックになった2人に邪魔をされた。


「いい加減にしろ!くそ馬鹿どもがー!!」


 汚い言葉を叫んでいる僕自身も、きっと大ばか野郎。



 時間がかかったけれど、何とか崖下に降りた。着地と同時に浮力装置が歪に膨れ上がる。


「あぁ、また爆発かぁ!!」


 色々やけくそになって崖上に投げ上げれば、派手な音が頭上から響いた。追手に当てるつもりで投げたけれど、吹き飛ばすことしかできなかったようだ。数分して到着した影武者から、捕獲した連絡をうけた。


「どうなった…俺たち。」

「うが…ヒローナぁ…」


 呆けたようにまだ脇に担がれ、僕にしがみつくヴィントは目の焦点が合っていない。

 ローガンは着地を確認と同時に気絶した。


「…流石にやり過ぎたよ、ごめんね…」

 

 救助に降りてくる部下たちを見つめながら、初めてクラリベル以外の人に罪悪感を覚えて謝罪した。

 



 屋敷に戻って2人の手当てを他の人間に任せ、自分も手当てを受けていたらクラリベルに見つかった。

 怒った顔のクラリベルが抱き着いてくる。


「ねぇ、エリオット…私が伝えたいことわかりまして…?」

「な、なんだろう…?」


みしりと胴体から軋む音がする。


「野鳥クラブの方から聞きましたの…。爆発音が聞こえて見に行ったら、暴漢が捕まってて、崖下から襲われた様子の貴方が救助されている姿をみたって…。」


上手く部下たちが友人を誤魔化してくれたことに感謝した。


「そうなんだよ…災難で…」

「モモンガルガル教の人間よね…私があなたに話したから…」


 誤魔化せていない。肝心なクラリベルが誤魔化せていない!これが千里眼の力か…。


「…何のことだい?」


 しらばっくれれば、更に胴体が軋んだ。鷹狩りが上手いだけあって、弓をひくクラリベルの腕力は強い。


「無茶しないでってお願いしましたわ…貴方一人が頑張っていることが悲しいって言ったわよね…?どうしてまた一人で動いてしまったの…もしエリオットに何かあったら、私…私…」


ミシミシとあばら骨が悲鳴を上げている。


「クラリベル、落ち着いて…」

「この程度の怪我じゃだめ…このままベアハッグして、骨の1.2本ヤッてしまえば貴方は休めるわよね…どこにもいけないわ…死んでしまうよりましよ!」


 どこか彼女の言動に既視感を覚えながら必死になだめた。何も知らなかった彼女が何故こんな物騒な発言をするようになったんだ。屋敷に悪影響を及ぼす輩がいる、早く見つけないといけない。

 彼女が落ち着くのを待って話をしたら、浮かんだ犯人に頭を抱えた。夫婦が似てくるって話は本当だったらしい。

 



 説得が功を奏して無事に骨を折られずに済み、屋敷に数日監禁されるだけで済んだ。そのまま本気で休めば、彼女も僕も落ち着いて仕事の報告をし合える様になった。ヴィントたちにも休むよう伝えてある。


「そういえば、お願いしていたハミルトン領の土壌調査は何か分かったかい?」


 頷いたクラリベルは、すぐに報告書を持ってきた。


「ここのところ葡萄の育ちが悪かったのは、雨期が1か月前にきていたことと関係ありましたの…一部の土が必要以上の水分を多く含んだままになっていて本来の土壌バランスが崩れていたのですわ。サイフォンの原理を使って上手く水抜きと水の吸い上げを行う試みを行っておりますの。これなら魔力のない人間でも土中の水を動かせるかもしれないのです。」

「なるほど、流石だね!魔力を使わないなら色んな人ができることだ、凄いよ。サイフォンの原理という言葉を初めてきいたのだけど、これは面白い取り組みだね。他にも活用できそうだ。」


 いくつかお願いしていた仕事が無事に進んでいたことを確認して、このままハミルトン領関連の仕事をクラリベルに託す方向で話がまとまった。育成期間を終えた者たちも順調に成果を出してきている。トラブルもあるけれど、対処できる範疇だ。

 明後日の木曜日には大捕り物が待っている。この間、森で捕まえた人間は移送中に自害されてしまった。死体の顔からやっぱり第三王子派の人間の者だった。第一王子に報告をあげたけれど、死人に口なし。大した結果にはなっていない。


 水曜日に体力と調子を取り戻したヴィントたちを連れて池の調査をした。2人とも崖でみっともないことをしたから、僕以上に凄いところを見せつけてやると息巻いていて鬱陶しい。元気なことだ。僕だって活躍できたとは言えない。


 定期的に手入れをされている池の周辺に不審な人間の目撃情報はない。池自体に怪しいものはなく、水生植物についてヴィントが調査をしているようだが報告は上がってこない。帰りに池周辺の監視の目を増やして、部下を見張りに立たせてきた。ローガンはヒローナとの約束があるとかで、途中離脱していった。僕だってこの仕事が終わったら、クラリベルと学園でお昼ご飯の約束を取り付けたいな。



木曜日、早朝。

 朝から張り込みをしていたけれど、一瞬だけ全ての監視の映像が途絶えた。確認に向かわせるも、黒く長い蛇が池の水を飲みに来ていた以外に異常はなかった。森の騒動があったから中止されたのかと思っていたら、事件は起きた。

 池の水が数時間かからずに誰も立ち入らないまま、急に全てなくなってしまったのだ。


 当然、学園で大きな騒ぎになってお昼になる頃には業者が呼ばれた。

 専門家の業者も何故水がなくなったのかわからないらしく、首を傾げていた。僕の魔力測定器も反応しない。

 一瞬だけ全ての監視の映像が途絶えた瞬間が怪しいけれど、何故設置した場所がわかったのか不明だ。どんなからくりで人がいない状況で魔力を使わずに水を抜いたのか、目的もわからない。

 業者が呼ばれたついでに池の掃除をしていって、水生植物も綺麗に何もなくなっていた。変わりに小さな浮草に変わっている。上から作業をみていた生徒に聞き込みをしても、池に黒い蛇がきていたことしか情報がない。苦労したのに振り出しに戻ってしまった。



 ヴィントに水生植物の報告書を急いで上げることと、黒い蛇がどこから来たのか調べるように頼んだ。ローガンは昨日、ヒローナと何かあったのか挙動不審な発言しかしていないから、落ち着いたら僕の屋敷までくるように言った。



 残った結論で科学クラブの人間を捕まえて尋問する許可を第一王子に急ぎ申請して帰ってきたら、ヴィントが地下室でどや顔で待っていた。


 彼の足元には池の調査と掃除をしていった業者たちが縛り転がされている。何故か部屋の隅でローガンが反省した顔で縮こまっている。


「褒めてくれていいよ?ついでに女の子の助手とか俺につけてくれ!!」


 状況がわからなくて、詳しく話を聞いた。


 ロッカーで見つけた水生植物が異様に根が発達していたことに気が付いたヴィントは、池に入って水生植物をいくつか抜いて持って帰ったそうだ。あのお洒落に気を遣う男がよくそこで行動できたと感心する。

 得意げに差し出された水生植物の根には水に強い袋が頑丈に縛られており、それがいくつも根に絡まっている。袋の中には白い粉が入っていた。


「これは…まさか…」


 魔道具の中から麻薬検査機を取り出して、装置にかければ最も中毒性のある例の麻薬の反応がでた。


「根が発達してたから、もしかして池の前で待ち合わせではなくて、池の中の水生植物に何かあるかもしれないと考えたのさ。ほら、暗号も魚たちの住まう場所ってなっていただろう?こいつらの後をつけて、ローガンと2人で捕まえて聞き出したんだ。暗号のあの時間は池の水を抜いて騒ぎを起こす時間。後は学園の内通者が業者に連絡したふりをして、こいつらを呼びこみ根に仕込んだ麻薬を回収。証拠隠滅のために池を実際に掃除して帰れば何も残らないってわけ。過去にもこいつらは池の手入れと称して何度も出入りしていたよ。」

「なるほど…。じゃあ、僕の監視用の魔道具の位置はどうしてわかったんだい?あの黒い蛇とも何か関係あるのか?」


 僕の言葉にローガンがビクリッと肩を揺らした。


「ヒローナにだけ、作業していたことを話した。俺が心配だって泣いていたから、安心させたかった…すまない。」

「あぁ、君が原因だったのか…。その話を僕らにしたということは、ヒローナ嬢が僕らと敵対関係にあることが判明することも承知していたかい?」


 通りで挙動不審なわけだ。彼もまさかヒローナがモモンガルガル教と繋がっているとは思わなかったんだろう。僕もびっくりだよ。もうあの女は捕まえるしかない、どうしたものか。


「覚悟の上だ。今回のことでわかった。彼女は俺を利用していた。もう俺の初恋の彼女はいない…消えてしまいたい…死んでしまいたくなった。」


 深々と頭を下げるローガンを軽蔑した目で見つめる。初恋云々に何か思うところがないわけではないけれど、だからって死ぬ?その程度の覚悟かと呆れてしまう。


「僕に殺されにきたの?君の都合のいい自殺道具に使われるなんて嫌だよ。好きな子に利用されていたから、恋を諦めて死にたいとか、考えが愚直すぎだね。それよりもヒローナと今後どうなっていきたいか考えなよ。」

「まぁまぁ、ローガンもエリオットも落ち着けよ。ローガンも反省して、結果を出したんだからいいじゃないか!さぁさぁ、水の件も俺が華麗に推理したからよーく聞いてくれ。」


 何も言わずに縮こまって俯いた巨体を放置して、ヴィントの話に戻る。


「…あの黒い蛇と池は関係あったかい?どうやって池の水を空にしたか考えがつかないんだ。まさかあれが飲み干したとか、感知できない魔導具でもあったのか知りたい。」

「周囲を調べたら、池の近くに小さな穴があって深さ1メートル、横穴が更に掘られていて水路まで繋がっていたよ。ぱっと見はもぐらの穴にしか見えなかったけど、明らかに人工物だった。どうやって池からその穴まで水をひいたのかだけど、縄のような道具を引きずった跡が残っていた。この間クラリベルちゃ…、クラリベル婦人が魔法を使わないで水を動かす方法を模索してるって言ってたよね?サイフォンの原理だったっけ。あの黒い蛇が実は蛇に似せた黒い筒状の道具だったなら説明がつくよ。池にあらかじめ蛇に似せた筒を仕込んでおいて、監視を途絶えさせた一瞬で小さな穴につなげたんだろう。人間の誤認識と水の性質を上手く利用したからくりだった。あれが魔導具も人間も動かずに水を抜く仕掛けだとは誰も思わないさ。帰りに蛇を捕まるというより、道具を持つように回収していった業者の迂闊っぷりをお前に見せたかったぜ!」

「やるじゃないか。お手柄だね…」


大体状況がわかって、自分の節穴に落ち込んだ。本心からヴィントを褒める。


「麻薬を手に入れて油断しているこいつらの荷車は、2人だけでも襲えたよ!」

「なんだって…?」


 調子に乗った奴の次の言葉に聞き返せば、嬉しそうにどや顔をしていた。余裕な顔をしているが、よく見れば2人ともボロボロになっている。森の中の攻防の後より酷い。そういえば、ローガンも結果をだしたといっていたな。ちょっと前に命の危険にあったのに、また無茶をしたのか。


 得意気なヴィントが胸をはって、落ち込んだローガンの背中をたたいて励ましている。そういえば昨日、僕以上にできるところをみせつけてやるとか言ってたな。まさか、そのために報告しないでこんな怪我だらけになったのか。

せめて同行させていた部下を使おうとかなかったのか?


 彼らに、僕へ報告を上げておけとか、2人で勝手な行動をとるなとか、無茶をするなとか、一般業者を装っていたとはいえ荷車を襲うなとか、正式な手続きを待ってくれとか、言いたいことは沢山あったのだけど飲み込んだ。クラリベルの仕事の報告書もちゃんと読んでいたヴィントに免じて、彼らを怒らずに後の処理を引き受けた。

 クラリベルが僕を心配する気持ちが少しだけわかった。連絡もせず勝手に何処かで無茶をして、怪我をして帰ってこられるのは怒りたくもなるよ。今後はもう少し、彼女に伝えよう。


 その後、第一王子には「調査不足で報告を上げにくるな」だの、「学園近くで2人組の強盗が現れたそうだぞ、しつけがなっていないどこの輩だろうな?」だの、メッタメタに怒られた。



 ここからかなり苦労した。

 捕まえた業者からモモンガルガル教の情報が手に入った。やっぱり科学クラブを隠れ身にしていて、池の中が麻薬取引の現場だった。定期的に根の発達する水生植物に麻薬の入った袋を仕掛けて、業者を装った回収人にそれぞれ回収させていた。ロッカーの3番目と7番目を3回叩いて、水生植物の育ち具合で音が変わってきたら動く手はずだった。

 業者たちは残りも捕まえて、第一王子経由で国の重要尋問官に引き渡した。下手をしたら麻薬関係で国際問題も関わってくるから、慎重にことは進められたそうだ。後々、大量の逮捕者が出た。




 男女のロッカーが繋がっていたのは、まだ調査中だけど女子誘拐事件と関係があるようだ。まだモモンガルガル教と第三王子派の関係があることの証明、女子誘拐事件の解決が残っている。でも、このまま科学クラブを根城にしていた生徒たちの捕獲と麻薬の事件は解決できそうだ。このままいけば、モモンガルガル教の残党と首謀者の逮捕と第三王子派を追い落とすのも時間の問題だろう。


そして入学から悪目立ちしていた人物、ヒローナ


彼女の正体は、サターシャ・ホーブル

 小さな頃から貴族の家を転々と回って、養女や愛人になり暗殺や資金の使い込み、機密情報を引出してあちこちに売り払い没落に追い込む死神のような女。本来の所属は調査中。ここ数年は第三王子派のとある子爵家の愛人になり、学園に潜入する準備で静かになっていた。

 ホーブル家自体も血のつながった子供を色んなところに売りに出していた頭のおかしい連中だった。幼い子供に暗殺やスパイをさせて得た金額で更に犯罪組織を盛り立て、大人まで生き延びたものがホーブルを名乗って次の跡継ぎを重犯罪に送り出す。表向きは児童施設経営で盛り立てるとんでもなく黒い一族だ。


 ヒローナは幻覚装置で15歳若返った姿をしていたけれど、実年齢は20歳も年上の女性だった。


 これまで第二王子派と行ってきた迷惑行為、下っ端たちと市場の買い占めや貧民街出身の生徒いじめに暴行事件の情報を使う時がきた。学園の治安を乱した主謀者として拘束する。元々年齢を偽って入学していたこともあって学園長の協力を得られた。芋づる式に第三王子派のとある子爵家の調査をしたら、盗賊団との繋がりを発見。幻覚装置の入手ルートも見つかった。

 第二王子派もついでに落としたかったのだけれど、まだ派閥から抜けられていない状況で動けば自分にも影響がでる。ヒローナと下っ端の実行犯たちのみ学園と第二王子派から追放する形になった。ヒローナはこれから正式に国の機関で尋問を受ける。



 ヒローナ・アイシスの報告書をまとめてローガンに会いにいった。

 連日怪我だけらけになり、鍛錬が足りていないこと。学園の事件が明るみになった際に本来の職務である第二王子の近衛をしていなかったことから1週間謹慎処分になっている。

 まだ好きな女性を引きずっているのか元気がない。


「この報告書は君との約束を果たせなかったお詫びだ。…ヒローナ・アイシスは存在しない女性だったんだよ。君の想いは青春の幻想物として大事にすればいい。」


 緩慢な動きで報告書を受け取って、時間をかけてヒローナの情報を読んでいく。



「違う…なんだこれは…?ヒローナ・アイシスは存在する人物だ!」

「え…?」


 しばらくしてローガンが引きつった声でしゃべりだした。


「俺とヒローナは10年前に北の地で出会っているんだ。凍った湖のほとりで一緒に遊んで、一日中たわいもない話をして、別れの時に将来の約束をしたんだ。大きくなったら結婚しようねって…。当時、同い年の女の子を好きになったはずなんだ…。入学式で再会した時にヒローナは俺が送った玩具の指輪を大切に持っていてくれた。俺との約束も覚えていた…でも、数日したらどんどん様子がおかしくなっていって、俺はそれが第三王子派の人間に利用されだしたからだと、思って…なんだこの報告書は…誰だこの女!ヒローナは、ヒローナはどうなっているんだ!!?」



最後は悲鳴のような声で叫ぶ。


幻覚装置を作ったのが6年前だから、10年ほど前にローガンと出会った頃のヒローナは別人ということになる。

まだ解決していない事件が脳裏に浮かんだ。



モモンガルガル教による女子誘拐事件



「本物のヒローナはどこに行った?」


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