始まり
元はミステリーで書いていたのですが、トリック作りに引っかかり、シリアスが続く状況に耐えられずに8割削ってギャグと恋愛ものの短編に仕上げ直しました。クラリベル編全7話まで、気楽に読んでいただけると思います。
8話以降のエリオット編から元々考えていた、シリアスと推理要素を含んだ作品になります。
ミドルスクール受験期に急に前世?の記憶とやらが知識として浮かんできた。どうやら乙女ゲームと同じ世界に転生してしまったらしい。
自分の許婚エリオット・グリフィスが乙女ゲーム公式から推奨攻略対象なのに気がついて絶望した。
このまま志望校に受かったら、卒業式に断罪イベントの後に追放される未来が待っている。
しかも、頭を打ったとか嫌な体験があったとかじゃない。
メイドさんが焼いてくれたクッキーを勉強の合間にかじった瞬間に思い出したのだ。
神様、命がかかっているのにこんな思い出し方で良いんですか?!
ラッキーなことにまだ入学どころか進路確定すらしていない。
「これなら楽勝で生き残れるわ!」
ガッツポーズを決めて円満な婚約解消をしてみせるわー!!と、高らかに笑う私を心配そうにメイドさんが見てるけれど気にしない!
悪役ではなくクラリベル・ハミルトンとしての人生を長く生き延びるのだ!
なんて、考えていた時期が私にもありました。
志望校に受かってしまった。
許婚とも変化なし。
婚約解消に賛同してくれる味方もなし。
進路変更もできなければ、エレメンタリースクールからの付き合いのある許婚に対策も何も効果がなかったのだ。
勉強をさぼって評価を落として学校変更をしようとした。
「クラリベルとの学園生活が今から楽しみだよ。一緒に勉強頑張ろうね。」
許婚が家に入り浸って、二人きりの勉強会を毎日でした。
そりゃあ、知数も婚約者同士としての評価もあがりますよ。
体調が悪いと言って断り続けたら、毎朝一回、学校帰りにもお見舞いに来てくれました。罪悪感から作戦断念。
こっそり学校の変更をしようとした。
「クラリベル、一緒に願書の提出に行こうか。帰りに君の好きなキッシュを食べて帰ろう?」
がっちり願書の提出から受験料の払い込みまで許婚とやりました。
後で考えたが、独断で学校変更したら自分だけでなく家の評判まで落としていたろうから、早く両親に相談するべきだった。でも相談したところで、志望校が国で一番頭の良い貴族が集まる場所だったから反対されて終わった気がする。
許婚に何度か婚約解消をもちかけてみた。
丸めこまれて終わった。
エレメンタリースクールからの付き合いである許婚に口で勝てるはずがなかった。
そもそも許婚は良い人だ。おっとりしているが、文武両道で社交的な彼は私の家族からも評価が高い。私自身も友人として好意を抱いている。こんな相手に婚約解消なんて自分からいって成功するほうが難題だったのだ。
誰よ、楽勝なんて言ったのは!? …私か…
そびえ立つ学園の門へ向かいながら、馬車の中でこれから始まる新しい学園生活に震えていた。
ヒロインとエリオットの運命的な出会いを目の当たりにして、ゲームが始まったことを確認した私は思い立った。
「そうだわ、学園で許婚と接点がなければ良いのよ!」
幸いクラスの友人は数人できてグループも確定している。週に一回のクラブ活動も希望先を見学に行ったところゲーム関係者はいない。
この国では子爵、男爵クラスにはトラブル回避のため色々と上層部の情報が伏せられており、身分が高い人なら誰と誰が許婚同士か知っているが故に、逆に関係について深く関わってこない。
ミドルスクールからの付き合いの友人がお互いに学園内にほぼいないので、侯爵の父を持つ自分と同じ侯爵の父を持つ許婚の関係を知るものは少ないのが幸いだ。頑張って評価の高い国立学園に入れて良かった。
クラスも違うのだから、私が近づかなければ関係は露呈しない。学園での人脈作りに励みつつ、趣味や思考が合わなかったと2年終わりにでも父に伝えて許婚を解消してもらえばいい。
それまでに一人でも生き残れる進路を確保しておけば、今後も問題ないはずだ。
残り一年で充分できる。
少なくとも婚姻による家同士の強化以外にも結びつきを強化する方法は商談から防衛まで色々ある。
国立学園自体には婚約者との問題以外は、人脈作りにしろ進学するためにしろメリットしかない。進路変更はさせてもらえなかったが、逆を言えば学園で何かしら実績を作れれば、学園以降の進路は決めることができるのだ。
「よし、とりあえず新しい習い事を増やしましょう」
時間があると人に捕まりやすい、それなら時間を自分投資に使えばいい。
令嬢に必要な習い事だと結婚に乗り気だと思われてしまいそうだ。
あまり貴族令嬢がしない習い事を増やしてみることにした。