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遠い昔の夢~仲間との出会い~

* * *


「……北の村の少女、ですか?」

「そうや。陰陽師も敵わないぐらい、すごい術を使うらしいで」


 俺は、最前線の砦にある作戦兼休憩室で討伐隊の隊長と話をしていた。


 夢の中では古語のようなもので会話をしたり物事を考えたりしているようだが夢を見ている俺は、それを現代語に翻訳して聞いているようだった。


 北の村――。そこには代々不可思議な力を持つ人々が住んでいる。

 炎を呼び、氷を操り、風を吹かせ、雷鳴を轟かす。竜を召還する者もいるらしい。


 陰陽師のように朝廷や公卿に近づくことはせず、彼らは自然と共生して生活している。その村に行ったことはなかったが、噂では桃源郷のように美しいところだという。


「でも、そこの村人はこちらに協力してくれなかったんじゃ……」


 朝廷も鬼討伐のために力を貸すように何度も使者を派遣して催促したらしい。

 しかし、いずれも掟を盾にして、その力を貸してくれることはなかった。


「……これはまだ公表前の情報やけどな」


 隊長は、狐のような目をさらに細めて、顔を俺の耳に近づけてくる。


 いつも冗談ばかり言っていて部下からも慕われている人物なのだが、その表情は、いつもと違って、影を帯びているように感じられた。


「北の村が……鬼の襲撃を受けてな。壊滅したんや」

「えっ!?」


 そんな異能者の集まりのような村が……壊滅?


「……確かな情報なんですか?」

「間違いないわ。三日前の話や。こちらからも現地に調査隊を派遣したんやけど村にいた者は全員殺されとったわ。つまり、生き残ったのは、逃げてきた一人だけいうことになるな」


「それが……その少女なんですか?」


「そうや。なぜあの子だけ逃げられたのかは、わからん。それに、なぜあれだけの異能者集団が、鬼にたやすく全滅させられてしまった理由もや。報告では、白昼堂々の襲撃。そして、双方共に魔法を使った形跡はなし」


「つまり……魔法を封じる術を鬼が持っている、と」

「おそらくは、そうやな。魔力がなければ村人は一般人以下や。あの村の住民は体格も腕力も、我々より遥かに劣っとる」


 ここのところ鬼を斬ることに抵抗を覚えていた俺だが、この話を聞いて眠っていた怒りが込み上げてきた。


 罪のない村人を惨殺するような奴らは、やっぱり人じゃない。鬼だ。

 俺の怒りを見届けるようにしてから、隊長は意外なことを口にした。


「……これからお前には、その少女と一緒に戦ってもらうで」

「えっ……?」


 意味がわからない。どういうことだ。

 俺の視線を受けて、隊長は淡々と話を続ける。


「お前と一緒にいるのが、一番安全やからや。そして、彼女も鬼への復讐を望んどる。彼女の力を借りることができれば、我々の戦力は格段に上がる。そうすれば、この戦いにも終わりが見えるわ」


「で、でも……鬼は魔法を封じる手段をもってるんじゃ?」


「それを確かめるためにも剣の使い手であるお前に彼女を付属させるんや。これから二人で組んで戦い、魔法を封じるような鬼と出会ったときは、お前が助けるんや」


 ……そうして、俺は魔法を使う彼女と出会った。

 小さくて、幼い……童女そのものだった。

 だが、その瞳は復讐に燃えていた。


 それからの俺の戦いは、ずいぶんと楽になった。


 彼女――犬子ちゃんの怒りの炎は鬼を容赦なく燃やし、氷で貫いた。

 魔法を無効化をする鬼ともその後出会わず、向かうところ敵なしだった。


 それでも、人手不足だけはどうしようもない。

 砦に詰めている人数だけでは、広範囲の侵攻を防ぎきれない。

 朝廷からの援軍も、なかなかやってきてはくれない。


 そんな折。鬼が攻勢をかけてきた。西の山に位置する砦。

 

 ここには猿谷という地元の部族を統べる筋肉質な男がいて、斥候・撹乱などの活動をしていた。元々は村の自衛のために作り上げられた砦だが、今は朝廷軍と連繋をとって鬼と戦っている。


 俺と犬子ちゃんが先発して現地に急行すると、鬼の軍勢が砦のある山へ攻め登っているところだった。


 砦からは岩石や丸太を転がして、鬼の侵攻を阻む。

 鬼は犠牲を出しつつも、さらに上へと登ってゆく。


 俺と犬子ちゃんが攻撃を仕掛けようとした矢先、砦から一人の人物が出てきた。

 痩せ型だが、筋肉質――そして、無駄に上半身を露出している。

 こいつが……猿谷だ。


「ずあああああああっ!」


 猿谷は気合もろとも山を駆け下り、物凄い勢いで鬼を蹴散らしていった。


 こいつも、おそらくは異能の使い手。じゃないと、あんな人間離れした脚力・腕力を説明できない。


 猿谷は一直線に、俺達のところへやってきた。

 かなりの高さがある山なのに、五分とかかっていない。


「いよう。女連れで来るとは嫌がらせか」

「それを言うために山を駆け下りてきたのか?」

「無論、違う。彼女を口説くためだ。さあ、乳を揉ませろ」

「なっ……なんなんですか、この人」


 いつもは冷静な犬子ちゃんが、たじろいだ。そういえば、猿谷とは初対面だ。


「そんなことより……砦が攻め込まれそうだぞ」


 猿谷がこっちに来てしまったせいで鬼は体勢を立て直しつつある。

 そろそろ丸太も岩石も切れてきた頃だろう。


「ふんっ、それでは戻るか。さらばだ!」


 再び物凄い勢いで山を駆け上がりながら、猿谷は鬼を蹴散らしていく。

 鬼としても、あの半裸の変態と戦うのは嫌そうだった。


「あれは、猿谷って阿呆だ。変人だが、貴重な戦力だな。さ、俺達も戦うか」

「は、……はい」


 結局、鬼の侵攻は俺達の力で食い止めることができた。


 ……これが、三人が揃った日のことらしい。

 遠い、遠い、そのまた昔の――。



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