悪役令嬢に転生したけど推しが尊すぎてそれどころじゃない
初めまして。閲覧ありがとうございます。いつもと違う書き方にチャレンジしてみたのですが、反応を頂けてとても嬉しいです。
そのため活動報告にて感謝の言葉と、長編を書く気持ちになった時用にメモしていた「設定の一部」を投稿しました。
室内のシャンデリアの光に照らされきらきらと輝く、サラサラなプラチナブロンドの髪。
海のように深い深い青色の瞳は、高い魔力を秘めた者だけが天より授かる美しい"宝石眼"。
「アンネロッタ、誕生日おめでとう」
「おめでとう、私達の愛しいアンネロッタ」
「私達から君へとびきりの誕生日プレゼントを用意したんだ、受け取っておくれ」
"ソレ"は大好きなお父様とお母様が7歳の誕生日にくれた、私だけの――――奴隷だった。
「はぁああ……今日も美しすぎますわぁ〜!!!!」
あらやだ、いけない。
私ったら興奮のあまり、つい大きな声で叫んでしまいました。
御機嫌よう、私の名前はアンネロッタ・リリーヌ。
リリーヌ家に生まれた極々普通のお嬢様……ではなく、後数年後に通う貴族学校で"悪役令嬢"としてヒロインや婚約者様にざまあ展開されちゃう断罪ルート待ったナシの伯爵令嬢ですわ。
実は私には生まれた時から朧気に前世の記憶というものが御座いまして、7歳の誕生日に両親からプレゼントされたモノを見た途端、まるで雷が自分の身に落ちてきたかのような衝撃と共に前世の記憶が完全に蘇りましたの。それはもう驚きの瞬間でしたわね。
何故ならここは前世の私が愛読していた携帯小説[桜の君に恋をする]、略して桜恋の世界そのままであり、プレゼントという名目で与えられた奴隷は私が前世で最も推していた登場人物だったのだから!!
――――彼の名は、ロベルト。
青きサファイアの宝石眼を持つ、天に選ばれた魔法使い"だった"少年。
そんな彼には宝石眼以外にもうひとつだけ、普通の人間とは違う特徴を持っている。
悪魔に呪われた証である、"褐色の肌"を。
天に愛されて授かったはずの宝石眼と、呪われた褐色肌。
そのあまりの異質さに実の両親から気味悪がられ、酷い虐待の末にロベルトは奴隷商へ売り飛ばされてしまう。
この世界は貧富の差が激しく、褐色肌を持って生まれたものは悪魔の子として蔑んだり奴隷として売り飛ばされるのは珍しいことでは無い。そのためロベルトは娘への誕生日プレゼントとしてリリーヌ家に買われたのだ。
原作でのロベルトを一言で表すならとにかく「しんどい」。
生まれた時のエピソードは勿論のこと、アンネロッタの奴隷としての日々はサイドストーリーという形でしか本編に出てきませんでしたがとにかく辛い。生き地獄と言っても過言ではありません。死にたくても死ぬことさえ許されない絶望の日々を過ごしていました。
前世の私は、推しであるロベルトのエピソードを何度も読み返しては洪水のように涙を流しましたわ。なんて不幸なのだろう、と。
後に主人公であるヒロインによって救済はあるものの、生まれ落ちて18年もの間ずーっと不幸な毎日なんて私には耐えられない。何より推しが目の前で苦しんでいる姿なんて見たくない。
だから、私決めましたの。
私の持つ全てを使い、推しを幸せにしましょうって!!!
「あちらの衣装も貴方にとぉおっても似合っていましたけれど、こちらの濃い色も魅力的だと思いますわ!!是非こちらも着てくださいまし!!」
「…………」
ロベルトが私のモノになって数日。
今日は彼のためだけに取り寄せた最高品質の衣装をあれやこれやと着せ替えて、彼にぴったりな服を選んでいました。
はぁぁぁ……夢にまで見た推しが私の目の前に存在し、私の選ぶ服を着てくれるこの幸せは何物にも代えがたいですわね。
ありがとうお父様お母様、私とっても幸せですわ!!
「…………あの、アンネロッタ様」
「!!」
ああああっ!!?一体どういうことかしら!!?
たった今、初めましての挨拶以外一度も口を開かなかったロベルトが、私の推しが私の名前を呼びましたわ!!?
興奮のあまり叫びそうになるのを何とか堪えつつ、私は「何かしら?」と上品な声で返答することに成功した。
「……アンネロッタ様は……何故、僕に、優しくしてくれるのですか?」
「え?それは……推しに――――」
「僕は、奴隷で……呪われていて……っ……!!」
「ロベルト!!?」
な、なっ、なんということでしょう……!!
ロベルトは綺麗な青い宝石眼から大粒の涙をぽろぽろと零して、その場に膝から崩れ落ちてしまったのです。
当然ながら慌てて駆け寄ろうとした私。
けれどもロベルトが悲痛な声で「来ないで!!」と叫んだため、私はその場に立ち尽くしてしまいました。
「……同情でしょう?……それか、優しさを覚えさせた後に絶望へ突き落とすつもり?奴隷の身でありながら、普通に生きようとするなんて、って……!!」
「……ロベルト、貴方……」
感情を爆発させながら体を震わせるロベルト。
そうだわ、ロベルトはまだ6歳……年相応の男の子であり、愛を知らないせいで不安定だと言うことを私は忘れていたのね。
「ロベルト」
「っ……!!!!」
気付けば私はロベルトの元へ駆け寄り、その震える体をぎゅっと抱き締めていた。
「ごめんなさい、ロベルト。私ったら大切な事を見落としていたのね」
「……え……っ……?」
「貴方に幸せになってもらうにはまず貴方の心と向き合わなきゃいけないのに、つい先走りすぎてしまったわ」
「……しあわせ?……僕が、幸せに……?」
「えぇ、私は貴方に幸せになってほしいのよ。……服の下に隠れている身体の傷も、心の傷も、全て癒してあげたいと思っているの」
「……アンネロッタ、様……」
――――ロベルトの震えが、少しずつ収まっていく。
私がいきなり与えすぎたせいで彼は戸惑ってしまったようだ。心の底から反省している。
……けっ、決して、今のこの状況に気持ちが高ぶってなんていませんのよ?
「じゃあ、アンネロッタ様は……本当に、僕を……?」
「何度でも言うわ、私は貴方に幸せになってほしい。だって、私は……」
"後数年後にはざまあ展開と断罪ルートが待っているのだもの"。
……なんて言えるはずもなく、私はその間を誤魔化すように微笑むことしか出来なかった。
「…っ…り、……と……」
「うん?どうしたの、ロベルト」
「……ありがとう、アンネロッタ様」
「!!!!!」
ふわりと、ロベルトが微笑……あーっ!!!??推しが私の腕の中で微笑んでる!!??天使が、天使が私の腕の中に!!??!
涙で目尻が少し赤くなりながらも微笑むロベルトはとにかく愛らしい。それも腕の中から上目遣いなんてときめきコンボの連続ですわ!!
きっと前世で見た漫画雑誌なら確実にきらきらトーンがぶわぁああっとなっているでしょう。
まだこんなにも幼いのに微笑みだけで国宝級だなんて、あらやだもう目眩がす…………
「……っ……アンネロッタ様?……ア、アンネロッタ様!!」
推しの声が、段々と遠のいていくような感覚に陥る私。
嫌だわ、推しが尊すぎるあまりに倒れるなんて恥ずかしい。
……何より、もっとこの幸せすぎる時間を堪能したかったのに……なんて邪な気持ちを最後に抱き、私は意識を手放してしまったのでした。
嗚呼、推しが尊いっ……!!!!