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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
ロートリング
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俺、危機一髪

 年末になって、俺は爺ちゃんについて夜会に顔を出す機会が増えた。

 

 連日パーティーに出かけ、時には掛け持ちしたり。

 我が家でもパーティーが開かれ、沢山のお客様がやって来た。


 それと共に知り合う人達も当然増えて、人の顔と名前とその背景を覚えなければならぬ日々。

 俺は爺ちゃんの跡取りという自覚はあるので、必要な社交は頑張りますよ。どんな時もにこやかにお話をするのも然程(さほど)苦ではない。意外と皆の話は面白かったりするからね。


 確かに何度も聞いたら飽きるだろうけど、でもまだ新鮮だから、興味を持つようにスイッチを入れれば、本当はどうでもいい会話でも結構楽しめる。

 ストーリーを知らない新しい本を読む感じ。

 まあ、「年が近い」「自慢の娘」を紹介される回数が多いのは仕方ないんだろうな。特に母親の圧が強いのでちょっと後ずさりつつ、にこやかにご挨拶をしていますよ。


 そんな事をして過ごすうちに、俺には、遊んでくれるというか、俺で遊ぶお姉さんが2人増えた。

 純粋に遊ぶだけの気持ちと、将来を見越しての事と、両方で近付いて来たんだろうななんて思いつつ仲良しになる。

 

 キャロは、自分の将来の事を考えてボウヤな俺とは「適度に距離を置いて付き合っている」のだそうだ。早く結婚して30歳前には子供が欲しいんだって。だから俺はカウントに入らないらしい。

 そう言われたら仕様がないけど、ほんの数年早く生まれてたら違ったんだと思うと、自分のタイミングの悪さを見せつけられる感じでしょぼん。

 しょぼん、と言ったら「運命よ、諦めなさい」だって。大人だ。


 そんなわけで、寂しさと興味が相まって、俺は近付いて来たお姉さん達を受け入れた。


 浮気者と言うなかれ。

 キャロだって「結婚する相手」を探しているんだから。


 新しいお姉さん達は、おしゃれで美人な19歳のアリスと、クールなようでどうやら隠れオッチョコチョイな21歳のサンドラ。

 アリスは面倒見が良いタイプらしくてお姉さん風を吹かせる。甘えると喜ぶのかな。

 サンドラは、割と無口だけど、見てると面白い。笑わないようにするのが大変。


 彼女たちは、確かに俺が大人になるまで待ってもあんまり問題はないっぽい。とは言え、俺的には、もし彼女たちが俺に対してすごく本気なんだったら、ちゃんと真剣に関わり方を考えないといけないと思っている。でもさ、なんかそういう感じでもないんだよね、ふたりとも。

 様子見をされているというか、味見をされていると言うか…ゴニョゴニョ。

 

 彼女たちとちょこちょこ楽しんで、気楽に浮かれて年末年始の休暇を過ごせると思っていたら、そうは問屋が卸さなかった。


 年が明けてすぐに事件が起こった。


 アリスやサンドラとは別に他にも近付いてくる人達はいたんだけど、俺は別に手当り次第に仲良くするわけじゃないので、適当に(かわ)していた。だいたい皆すぐに引いて、ただの友人になるんだけど、1人だけ違う人がいた。

 キャロと同じ位の年に見える妖艶な印象のお姉さんが、躱しても躱しても近付こうとして来て、困ったなと思っていた。

 一回くらい相手をすれば気が済むんだろうか?なんて思い始めていた所で、セバスから「あの方は駄目ですよ」とストップが入った。 


 「トラブルになりそうな相手は避けて下さいね。他の方々は今の所大丈夫ですが」と。


 待って、何で「他の方々」とか知ってるの?…なんてちょっとだけ驚いてみたけど、まあね。14歳の時の事があるから、どうせ色々バレてるって思っているから…平気だ。

 

 俺も困っていた所だったし、素直に「んじゃ、関わらないようにします」と言って、その妖艶なお姉さんとは極力顔を合わせないようにした。

 夜会などで会ってしまっても、向こうから来るまでは気付かないふりをし、声を掛けて来た時にも挨拶だけで済ませていた。そうしている内に彼女の様子が変わって来て、なんだか恐いレベルになった。何が恐いって、まず目が恐い。

 

 もちろん、何かあっても力づくなら彼女に勝てるけど、力が強いどうこうじゃなく、精神的に来る恐さ。

 そして、メールアドレスも教えてないのに、俺が誰かと会ったり話していると「何でその女とは会うのに私は無視するんだ」とメールが来るようになった。それが毎日毎日続いて、俺がどこで何をしてるか全部チェックしていて、このままでは俺だけじゃなくキャロや他のお姉さん達にも危害が及ぶ可能性も強くなり、セバス部隊が本格的に出動して抑える事になったんだ。


 結局、大事に至る前に解決はしたので良かったんだが、爺ちゃんとセバスとその部下の人(始めて会った)から報告を聞いて鳥肌が立った。


 元々彼女は青少年好きで有名な人で、関わって行方不明になった子もいたとか。最初はそれがあったのでセバスがダメだと言ったのだそう。

 ちなみに彼女は37歳。どこぞの小金持ちの娘で、伯爵夫人になるはずが破談になり、その後他の人と結婚はしたけどすぐ離婚なさって、ひとりで自由に生きていたらしい。派手な生活をしていて、その資金がどこから出ているのかがずっと謎だったんだと。良くない付き合いの噂はあったらしいけど、証拠もなかったそう。

 

 そんなわけで警戒はしていたものの、俺が避けるようにしてから行動がヒートアップしたので、それを抑え込む為に動いたら、彼女が俺を(さら)って「スイスの家に監禁して可愛がろう計画」を進めていた事が判明したんだと。

 しかも、彼女の背後には、やはり反社会的な危険な組織も関わっていたそうで、そこから叩いたらホコリが沢山出て来たらしい。そして、その「スイスの家」からは色々とヤバい物証が出て来たそうだ。…行方不明になっていた少年も変わり果てた姿で。


 ただ俺を可愛がる為だけに誘拐しようとしたのではなく、他にも目的があったのではないかとも考えている、とセバスが言う。 

 何度か実際に誘拐されそうになったのを、俺に知らせずセバス部隊が阻止してくれていたらしい。


 そういえば、俺がカフェから出た時に、やけに近くにスッと停まった黒いワゴン車があった。そのドアが開くかという瞬間、バックしてきた車が思い切りそのワゴン車にぶつかるという事故があったけど、もしかしてあれもそうなの?

 そして、黒いワゴン車のすぐ後ろの車から人が出て来て「何やってんだ!」って大声で文句つけて騒いでた。あれもそうなの??

 …なんか、大変にお世話になってしまってすみませんでした。ありがとうございます。恐縮ですって思った。

 「色々ありがとう」とお礼を言うとセバス部隊の人は「仕事ですから」とだけ返してくれた。 

 セバスは「アラン様に気付かれるような無能は使っておりません」と言うし、爺ちゃんは「もっと堂々としていろ。いずれお前が使う連中だぞ」と言う。それはそうだけど…。 

 

 ほんの2週間位の間の事ではあるけど、こんな悪意というか愛憎と執着がダイレクトに自分に向けられたのは初めての事で、更に知らない世界にも触れてしまって、怖かったやら反省やらで、流石に俺もちょっと、いや、だいぶ心が疲れてしまった。

 アパートにはしばらく行かないようにして、お姉さん達とも会わないようにして、外出を控えて屋敷で引きこもりをキメる事にした。 


 キャロにだけは事情を話して、他のお姉さん達にはしばらく忙しいとだけ伝えた。キャロが驚いて泣きながら「大丈夫なの?」と心配してくれて、電話でエアーなでなでをしてくれたから「がんばります」とよくわからない返事をしてしまった。

  

 せっかくの引きこもり期間だから、前から大学院の研究室でちょこちょこやっていた、「アイアンマンみたいな物」を一から作ってみようと、ガレージの地下にある「俺工房」で作業を始めた。


 大学院の友達や教授達も興味を持って「経過を見せろ」と言うので、それじゃと、時々ライブ配信をしながら進める事にした。

 


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