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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
ロートリング
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あったかくて良い匂いでホッとする


 長いフライトで疲れた。ただいま。


 サナエは先に屋敷に帰って、俺は街に持っているアパートに一泊して休んで行く事にした。


 ひたすら眠い。これが噂の時差ボケか。

 風呂に入って、サナエが買って持たせてくれた食べ物を温めて食べる。そしてパソコンを開いてメールやComiComi祭りの事をチェックする。 

 

 皆がチャットに書き込んでいるログを見て、1日前のことなのに、もう随分時間が経っているような気がした。でも、皆はまだ祭りの真っ最中なんだね。


 「無事に帰国してます。楽しかったよ、ありがとう!!」と書き込みをしておいた。 

 写真も沢山出てるみたいだけど、それは後にして、ちょっと眠ろう。 

 

 …と思っていたら玄関の呼び鈴が鳴った。誰よ?

 のそのそと起き上がって出てみると、いつも遊んでくれるお姉さん、キャロだった。

 当たり前に中に入って来て、部屋の中を見回し「電話は通じないし、何してたの?」と聞かれ、「仕事で日本に行っていた」と答えた。


 嘘ではない。断じて遊びに行っていたわけではない。


 「まあ、生きてたなら良かったけど?」とため息をつくキャロ。

 ここで、連絡しなくてごめんと言うべきか、俺に会いたかった?なんてカッコつけて言うべきか。…ダメだ、どっちも無理。 


 「ちゃんと生きてるよ」とだけ言った。


 キャロは26歳で大学院生。3年前に大学のカフェで知り合った。そばかすとクリっとした大きな茶色い目が幼く見せるけど、ふわふわの髪が素敵なスラリとした才媛だ。

 知り合って間もないある日、家具の移動を手伝ってと言われて彼女の部屋に行った。キャロは作業の後に俺にアプローチをかけて来た。

 そしてまあ、誘われるままに俺はその日、大人の階段を登った。


 階段を2段くらい登った俺が、年齢を聞かれて14歳と答えると、一瞬笑った後で真顔になり平謝りするキャロ。行動や反応で思っていたよりも若いのかと気付いたものの、「まさか14歳だとは思わなかった」と打ちひしがれていた。

 部屋に誘った時は、俺のことを19〜20歳だと思ったのだという。


 俺は「気にしないで」と言った。ほんとに。全然気にしないで欲しかった。何ならむしろありがとうだ。

 晴れやかな俺とは真逆に、罪悪感と自己嫌悪に苛まれていたらしいキャロだったが、少ししてから「そうね。今更何を言っても取り返しはつかないものね」と立ち直った。

 結局、それからも時々一緒に過ごすようになって今に至る。


 この事件を機に、俺はサナエの前でも自分をワイルドな呼び方をするようになり、叱られても譲らず、そして「お祖父様」を卒業して「今日から爺ちゃんと呼ぶから!」と胸を張って宣言をした。

 爺ちゃんは一言、「ほう、…何やら顔つきが変わって少し大人になったようだな」と言った。じっと見る目に見透かされているようで、さり気なさを装っていたつもりの俺だが、ソワソワと挙動不審になり、それを見て爺ちゃんは笑っていた。部屋の隅でセバスも笑っていた。

 思えば、あの後だ、セバスが俺にシステマ戦術を訓練し始めたのは。一人前の男として認められたという事なのか。冷や汗。


 テーブルの上に置いてあったタタミイワシを見て「何これ?」と言うキャロ。

 「それ美味しいんだよ、日本の居酒屋で食べて美味しかったから買ってきたんだ。ヘルシースナックに良いよ」と言うと、「ふうん、頂くわ」と言って食べ始める。美味しいらしくどんどん食べる。あああ、あんまり食べないで。俺のが無くなる。

 タタミイワシをじっと見てから、「小魚なのね。これは確かにスナックに良いわね」と言ってまたどんどん食べる。やめて、もう許して。


 俺は情けない顔で見ていたらしい。「なによ、無くなる心配してるの?」と言いながらも食べる。

 「それ、あと一袋しかないんだ」と言うと、「じゃあ、こっちは食べちゃってもいいわね」とニッコリ笑う。俺がしょぼんとするのを見て楽しんでいるようだ。いいもんね、持ち帰ってきたのは少しだけど、あとで箱で屋敷に届くもんね。

 

 いつもの様に当たり前にコーヒーを淹れて飲み始めたキャロに、「もう、眠くてダメ。寝るから」と言って俺は1人で寝室に戻ってベッドに倒れ込んだ。俺のタタミイワシに容赦のないキャロの為に起きているつもりはない。


 様子を見に来てベッドの脇に腰掛け、「時差ボケね。ゆっくり休むといいわ、お疲れ様」と言ったキャロ。帰るんだろうと思っていたら、「…私も眠いから寝るわ」と服を脱いでベッドに入ってくる。えー。


 俺はもう、とにかく眠くて起きてられないから、そのままキャロを抱き枕にして寝ることにしたよ。

 柔らかくてあったかくて良い匂いで、気持ちいいなと思いながら、頭を撫でられて眠りに落ちて行く俺でした。 


 こういうことしてるから甘えっ子が治らないんだ、きっと。

 

 

 

短い。

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