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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
ロートリング
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北欧男子 In Japan エルフじゃないよ(後)

 「チーム☆フェルナンド」のコスプレはレベルが高い。驚いた。


 コスプレって実は生で見るのは初めてだけど、皆の熱い熱い情熱が目で見てわかる。本当に好きでやってるんだなって、こっちまで楽しくなる。


 会場内を歩いている他の人達もどれも完成度が素晴らしくて、まるで異世界に来たみたいで俺はワクワクした。皆キャラに成り切ってて、なんていうか、すごく良い振り切れ方で生き生きしてる。


 スマホ以外にちゃんとカメラを持って来て大正解だ。色んな人に声を掛けて写真を撮らせてもらったり、一緒に写真を撮った。

 もちろん「チーム☆フェルナンド」の面々は沢山の人達に写真を求められていた。


 ちなみに、「チーム☆フェルナンド」はマーベル作品のコスプレだ。今日のコンテストにも出るらしい。俺は客席から応援する。


 「座って見られるといいな。立つとなると一番後ろにいないと迷惑になるもんね」


 俺が言うと、彩音ちゃんが「最近のエルフは気遣いが出来てえらいな」と言って笑う。そして、「入れ替えの時に上手く前に行けるといいな。結構移動があるみたいだからタイミングが合えば座れると思うよ」と教えてくれる。

  

 時間とともに入場者も増えてきた。何をするのにも並ばなければいけない。俺はみんなとずっといるのではなく、適当にウロウロして、またなんとなく合流するような形で会場内を楽しんだ。

 展示してあるフィギュアやグッズを見ていると気分が盛り上がるね。等身大のヒーロー達の展示もカッコイイ。このシェイプで全部が動いたら楽しいだろうな。

 それにしても、本当にどれも仕上げまで美しくて、さすがに技術高いよなあ。


 今回は、俺の憧れのゴジラの最新のでかい像が見られるんだ。まだ幕が掛かっているけど、午後にはオープンのはず。

 俺はもちろん日比谷にも行ったし、新宿のホテルのゴジラも近くで見た。東宝スタジオにも行ってゴジラの壁画とか銅像とも一緒に写真を撮った。一日で全部回ったから結構大変だったけど、次はいつ来られるかわからない。どこに行ってもゴジラが迎えてくれるので、疲れなんかは感じなかった。


 でも、今日見られるのは最新の形態の初お披露目の瞬間!そして映画の監督も来日していてトークイベントもある。直に話が聞ける。すごい!

 ああ、本当に来てよかった。


 歩き回りながら、「チーム☆フェルナンド」が写真を撮られたりコスプレの人達だけで集まっておしゃべりをしている様子を目にする。

 俺は色々買い物もして、来日している有名俳優のトークを楽しんだり、ライブでイラストを描いているのを見学したり、実が詰まった濃い時間を過ごす。


 そして、そろそろ「チーム☆フェルナンド」はコンテストに出るためにステージ裏に行くようだ。

 「いよいよだね」と言うと、レンさんが「客席にいるの見つけたらステージから指差し確認するぜ!」と言うのですごく楽しみだ。


 まだ時間があるので、俺は1人でもう少し会場内を回る事にした。どれだけ回っても飽きない。

 時々「人族のコスプレしてるエルフの方ですよね」と声を掛けられて、一緒に写真を撮ったりもした。あの3人組の女の子達とも友達になって一緒に写真を撮ったよ。 

  

 そして、フードコーナーで軽食を食べて一息ついていると、スタッフと思しき人に声を掛けられた。「すみません、アランさんですか?」と。 

 「? はい、そうですけど」と言うと、「ああ、よかった!目立つからすぐ見つかるはずだって言われたけど、見つからなかったらどうしようと思ってた!じゃ、お願いします。ご案内しますね」って。

 …何?

 

 誘導されて、何だか楽屋っぽい方に歩きながら「あの、何ですか?」と尋ねる。「本当に日本語がお上手ですね。マネージャーの門倉さんから聞いていましたけど、顔を見てないと完全に日本の方と話しているみたい」と言われる。


 マネージャーの門倉さん? 

 

 「すみません、今日はオフで遊びに来てるので、何も聞いてないんですが…」

 「あら、そうなんですか? あらあら、でもこちらに衣装も届いてますから、とりあえず着替えて頂いて。詳細は、じゃあマネージャーさんと電話でお話して下さい。あと1時間ちょっとで出番ですから」 


 出番?


 なんか嫌な予感がしつつ、案内された部屋に入るとテーブルの上にはペットボトルのお茶と、見たことがあるバッグが置いてあった。

 「衣装、こちらですね。じゃ、よろしくお願いします。30分後に打ち合わせに来ますから」 そう言ってスタッフさんは部屋を出ていった。

 1人残された俺は、そっとバッグを開けて中を見る。そこには昨夜サナエがアイロンを掛けていたエルフの衣装が一式入っていた。

 あれ?じゃ、俺が持って来てクロークに預けたのは何だ? 

 

 意味がわからなくてサナエに電話をすると「あ、良かった。ちゃんとスタンバイ出来てるんですね」と言われた。

 「スタンバイ出来てるとかじゃなくて、どういうこと?」

 「アラン様、コスプレしてないんでしょ?ダメですよせっかく私が用意したのに。罰として強制コスプレです。仕事として入れましたから。逃げられませんよ」

 

 サナエ恐るべし。

 

 「え、コスプレは…してるよ」

 「どうせ、人族のコスプレだとか何とか屁理屈言って、普通の格好してるんでしょ?」


 見抜かれている…だと?!

 

 「むにゅぅ…。俺は、一体何をすることになってるの?」

 「また、情けない声出して。小さい子供じゃないですからシャキッとして、ちゃんと仕事して来て下さいね!」 

 「…だから、俺は何をすることになってるの?」

 「大したことじゃないですよ、コスプレコンテストの入賞者へのプレゼンターです。衣装着て、ニコニコしながら記念品を渡して握手したらオッケー。数分ステージに出るだけですから」

  

 ステージに出る…。

 もしかして、「丁度いい仕事があるんです」って言ってたのは、撮影の事じゃなくてこっち?

 

 「とにかく、ちゃんと着替えて、シルバーのエルフの耳のイヤーカフ着けるのも忘れないで下さいね。サークレットもちゃんと着けるんですよ。じゃ、私はこれから墓参りなので電話切りますけど、後で写真送ってくださいね」

 そしてサナエは電話を切った。 

 

 俺はのろのろと着替え始めた。 

 白地に金や銀の刺繍が施された、足元まである長いエルフの正装。所々にキラキラ光を反射するラインストーンが付いていて、大変にホーリーでロイヤルでゴージャス且つラグジュアリーです。

 着替えてから銀のイヤーカフをつけ、銀のサークレットも着けて鏡を見る。悔しいけどエルフそのものだ。大きくなってからこんな格好で仕事するとは思わなかった。


 それにしてもおかしいなあ、クロークに預けたのは中身なんだったんだろう? 

 立ったままペットボトルのお茶を飲んで考えていると、ドアがノックされてさっきのスタッフさんが入ってきた。 

 

 「うわっ!」


 スタッフさんは信じられない物を見るような顔をして、たっぷり10秒くらい固まってから「あれ?ここはどこ? 地球? …で、ですよね? ええと、あ!さっきまで人間のコスプレだったんですか?こっちが本当の姿ですか?!」と面白いことを言う。

 

 「違いますよ。これはコスプレです」 


 「…ああ、そうか。そうですよね!いやあ、ドア開けた途端に良くある異世界転移ってのをしちゃったのかと思いましたよ。

 で、マネージャーさんに聞いたと思いますけど、今やってるコンテストの入賞者の表彰で記念品を渡していただきますね。特に喋らなくて良いですから。ただ写真撮影がありますので、司会の指示で皆さんと一緒にちょっとポーズを取って頂くことになります。で、それが終わったらハケて頂いてオッケーです」

 「わかりました」

 「それじゃ、出番になったら呼びに来ますので」

 そしてスタッフさんは出ていった。…良くある異世界転移って言ってたけど、良くあるのか?


 あ〜、俺もコンテスト観たかったんだけどなあ。「チーム☆フェルナンド」はどうなってるだろう。 

 

 そういえば、写真を撮る時にポーズをつけろと言われたので、鏡を見ながら何となくポーズの練習をしてみた。


 …うん、ただ普通に立ってれるのが一番良い。


 出番ですよ〜と呼ばれてステージの袖に移動する。

 さて、ここからは仕事だ。ちゃんとしよう。



 コンテストの入賞者が発表され、表彰となる。その時にワゴンの上の物をそれぞれに渡せばいい。渡すものはその都度、係の女性が渡してくれる。

 呼ばれて、賞品や記念品が乗ったワゴンを押す女性の後ろについてステージに出ていくと、ちょっとざわついてフラッシュが焚かれる。客席のカメラがこっちに向く。


 司会の人が「えーと、何か、本物のエルフさんが来てくれちゃったみたいです。はい拍手〜!」と言い、客席から「あれって、さっきまでゴジラファンの人族のコスプレしてた…。本当にエルフだったんだ!」と声が上がる。

 んなわけあるか。これはコスプレだ。


 俺はそっちを見てニコッと笑った。

 「エルフって、日本語わかってるんだよね」「チートだからね」って言ってるのが聞こえる。

 

 ステージ上に視線を戻すと、沢山の素敵なコスプレの皆さんの中で「チーム☆フェルナンド」の面々が唖然としていた。

 わかります。客席で応援してるはずの俺が、いきなりプレゼンターで出て来たんだもんね、そりゃ驚くよね。わかります。俺も驚いています。


 アイアンマンの史朗だけ肩が震えていて、顔は見えないけど笑いをこらえているのがわかる。

 レンさんがハッとして、予告通りビシッと俺を指差してから、スマホを出して俺の写真を撮り始めた。ちょっと何してんの。

 

 「チーム☆フェルナンド」は2位になった。さすが! 記念品を渡す時に彩音ちゃんに小さい声で「本当に君は俺の全てを奪って行くんだね」って言われた。ワゴンのそばにいた女性が聞こえたみたいで、一瞬ハッとして彩音ちゃんと俺を交互に見ていた。…そうじゃない。


  司会の人の進行が上手で、表彰は面白くテンポ良く滞りなく済んだ。そして、ラストの全員での記念撮影。俺は練習の通りに端っこで普通に立っていました。そして終了。


 先にハケてステージの袖のところで待っていると、「チーム☆フェルナンド」がハケて来て「なんだよ!何してんだよー!」と囲まれる。

 事情を話すと「ほんとに面白いな、あんた」ってレンさんに言われ、2人で写真を撮る。彩音ちゃんが「今日は完全敗北だよ…」と言いながらハグして来る。ミュリエルさんと田中さんとモモハラさんが、「やだもーエルフー好きー」とか「ちょっと、俺とも撮ろうよ」とか、「抱きしめても良いですか?」とか。

 他の出場者の人達にも、一緒に撮ろうと言われて忙しかった。

 もちろん、一番忘れちゃいけない「チーム☆フェルナンド」の皆との記念撮影もした。この写真は俺の宝物だ。

 

 着替える為に楽屋に戻る時、某有名ハリウッド俳優とすれ違って、「君、すごいね。本物みたいだ」って言われた。この人も普段仕事で異世界の神様の衣装を着たりしてる。だから仕事としての完成度を褒めてくれたみたいで素直に嬉しかった。ま、俺はサナエが用意した衣装を着ただけなんだけど。

 一緒に写真を撮ってもらって、それをサナエに送った。 

 

 ゴジTに着替えてから皆に合流する。「何で脱いじゃったの?」って言われたけど、まあね。

 また一緒に会場内で楽しんで、そしてあっという間に一日が終わる。

 

 皆はまた明日も参加するけど、俺は明日の夕方には帰国しなければならない。ちょっと寂しいと思っていたら、田中さんが「今日の打ち上げをしよう」と言ってくれて、会場のある駅の近くで皆で食事をした。

 初めての居酒屋。靴を脱いで上がって、板の間と畳の上を歩く。仕切られた座敷で、ホリゴタツ?の様にテーブルの下に脚を入れて座る。座ると同時に皆がどんどん注文をして行く。

 色んな種類の料理をみんなで食べる。美味しくてこれも楽しかった。スルメイカにマヨネーズを付けて食べるのが気に入った。つくねも美味かった。一番好きになったのはタタミイワシ。明日忘れずに買って帰ろうと思った。


 みんなは大人なのでお酒を注文していたけど、俺はジュース。「なんだよー」って言われたけど、「未成年だから」って言って笑われて、「大学院生って言ってたじゃん」と言われ、でも本当に17歳だと言うとここでもドン引きされた。

 

 楽しい時間は本当に過ぎるのが早くて、駅で解散してそれぞれに電車に乗った。彩音ちゃんが「次は負けないぞ、また来いよ!」って言ってくれた。

 俺は同じ方向のミュリエルさんとレンさんと史朗と新宿方面に。途中の駅でみんな降りていって、最後は1人になって新宿の駅からホテルまで歩いて帰った。

 また、来年こんな風にみんなで会えたらいいな。

 

 ホテルに戻るとサナエも戻っていて、「いい写真でしたね」と笑ってくれた。

 一緒に撮った某俳優が素晴らしい出来だって衣装を褒めていたと言ったら「さすがはプロ中のプロ、お目が高い」と満足そうだった。

 でもその後で「ネットにいっぱい写真が上がってますよ、ふふふ」と不気味な笑いに変わったので、俺は後で見ると言って、部屋に行ってシャワーを浴びて寝ることにした。


 クロークに預けていた荷物の中身は、全く同じエルフの衣装一式で、サナエが二組用意していただけだったらしい。用意周到とはこういうことかと思った。 

 

 短い日数だったけど、初めての日本を堪能して、翌日、俺は機上の人となる。

 帰るとまた寒くて暗いんだよねえ。

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